ADHDをコントロールする9つのテクニックとその前に必要なこと
SHIPではZoomでのオンライン内部研修を毎月行っています。
『ADHDの特徴と支援方法』についての研修内容を、受講者の感想や疑問も交えて紹介しています。今回の受講者はグループホーム「ラファミド八王子」の世話人です。
前半は「ADHDは性格ではなく症状」で、本人の苦しみを理解することが必要という話
現場に還元できる研修をオンラインで!『ADHDの苦しみを理解しよう』前編
後半は「ADHDが苦手な『実行機能』の役割と対処法」「薬物療法」について
現場に還元できる研修をオンラインで!『ADHDの苦しみを理解しよう』後編
そして最後に、「ADHDをコントロールするテクニック」について紹介させていただきます。
【ADHDのコントロールに一番大切なのは「本人の気持ち」】
ADHD研修では最後に、支援をする上での9つのテクニックが紹介されました。具体的な支援、介入の部分と言えます。
ただここで一番大事なのは「テクニックだけあってもダメだ」ということです。
利用者様の動機づけをある程度高めておかないと、どんなテクニックや介入も効果を発揮できないです。
いろんな福祉の現場を見てきた講師の兵働さんいわく「支援者だけが意気込んで、半年度に成果が出ないということがほぼ100%くらいある」だそうです。
スタートで大切なことは
- 本人の「変わりたい気持ち」がどの程度かに合わせて介入方法を考える
- 「変わりたい気持ち」がなければ、そう思わせるような関わりから始める
- 支援者本位にならずに、ご本人と一緒に考えていく
これがないと、実行はできたとしても、効果が表れず、支援者側が「なぜできないのか」とイライラしてしまう、ということになってしまいます。
支援者から客観的に見て変えた方がいいと思うところと利用者様自身が変えたい、できると思うところのずれは、意外と大きいものです。
支援者目線だと、どうしても理想が高すぎて結局上手くいかないものです。利用者様ベースで始めるために、まずは利用者様の話を聞いて一緒に考えることが最も重要なことです。
受講者からは、さらに「分かりやすさ」がポイントではという話が出ました。
受講者「現場では、ご本人の気持ちに加えて、『支援者がいかに利用者様に分かりやすくできるか』も、すごくと重要だと感じています。現場では、支援のテクニックなどについては、支援者同士ですら理解が難しいときがあります。
利用者様が求めているのは、決して高度ではなく、シンプルなものかなと感じていて、一つひとつ、分かりやすく単純なものを提供できればと日々思っています」
兵働「まさにそのとおりだと思います。自分がやっていく中で費用対効果高いと思うのは、『一緒に紙に書きながら話す』なんですね。特別な技法ではないけど一番いい。
細かい仕組みはこちら側だけが理解していればよくて、利用者様それぞれのレベルに合わせて、少しだけエッセンスを入れるようなやり方が、一番理想と言えます。
そのためには、相当こちら側が理解していないと、個人に合わせたカスタマイズはできません。
また、利用者様からの質問に答えられないのは一番困ります。自分がよく分かっていないのに勧めても、利用者様も疑問を感じてしまいます。
理解するためには、『自分で試してみる』のが一番です。自分の経験に基づいて、良い部分、難しい部分を、利用者様にフィードバックできます」
【9つのアプローチ】
ここからはADHDへの9つのアプローチについて具体的に紹介します。
①脳へのアプローチ
ADHDは「性格ではなく、脳機能の症状」です。脳へのアプローチは基本的に薬物療法が中心になります。医療へつなげること、適切な服薬管理などが支援者としてできることでしょう。薬物療法については、ADHD研修後半についてのブログでご確認ください。
②情動へのアプローチ
ADHD研修後半の「実行機能③感情のコントロール」でも出てきましたが、落ち着くために6秒数えるといった方法があります。知的障害の場合、頭で考えるよりも「水を飲む」など行動で切り替えた方が分かりやすい場合も多いです。
講師の兵働さんは、「腹が立った相手に対して、心の中でめちゃくちゃ悪口を言う」という方法がしっくりくるそうです。段々「なんでそんなやつに時間を使わなきゃいけないんだ」と一人で納得できるんだとか。常に冷静に話している裏にはそんなテクニックが…(笑)
「タイムアウト」は現実的には難しいという話も出ました。仕事中に「イライラするのでちょっとタイムアウトします(仕事中断して他の部屋で落ち着くまでじっとしてきます)」というのは確かに難しいですよね。
グループホームなど、逃げ場のある場所なら可能ですし、気持ちを切り替えるのに「環境を変える」のは手っ取り早いので、上手く使えると有効な方法でしょう。
「息を吐く」「ゆっくり話す」「筋弛緩」などの例を参考に、「注意をそらせる何か」をベースに、その人に合うコントロール方法を一緒に考えることが必要です。
③思考へのアプローチ
これは「考え方」をどうこうというより、「頭の中でごちゃごちゃ考えるくらいなら、とりあえず一回書き出してみようよ」という話です。声で出すという方法もあります。
外に出すことで視覚化もできますし、整理しやすいという人も多いです。
ただ「書き出すだけで解決するわけではない」という点に注意です。外に書き出すがそれまで、という人もいます。付箋などにやることを書くが、それでスッキリして実行はしない、といったことがあります。
スッキリはするのでその点は有効ですし、その後については、またその人に合わせた方法を考えて実行していく必要があるでしょう。
④タスクへのアプローチ
「タスク管理」として厳密にやらなくても、「優先順位をつける」など部分的にやってみるだけでも、効果が得られるでしょう。
「やることを忘れてしまう人、見通しが立てづらい人」などは、一緒にやってみると見えてくることもあるので、面倒でも一度一緒にやってみることは有効です。
たとえば掃除が苦手な人に「掃除の手順」を面倒でも書き出してもらうと、人によっては、こちらが思っている「掃除」とは全然違う、ということもあります。
現場でも「何でそんな行動を?」と感じることも多いようです。こちらが思っているのとは違う価値観、考え方、概念が、見えてくると、適切な対応も考えやすくなるでしょう。逆にこちらが先入観で見落としていると、支援をしても成果が出ないということになってしまいます。
受講者「見た目も話してみても普通だし、今までやってきたこともあるからと、ご本人に任せてみるとあれっと思う行動をとることがあります。買い物でもなぜそれを買うの?ということが。生活費をわたしていて普通に買っていただろうと思っていたら、確認すると食料など明らかに必要な物がないのに、頓珍漢なものを買っていたり。そういう方には手順書はすごく大事なんだろうなと思います」
兵働「ADHDの特性に加えて、その人なりの価値観もありますよね。こちらも印象でこの人ならできそう、今までやってきたみたいだしと先入観があると見落としがちなことも、書き出してみると分かることがあります。まず、前提が違うと頑張りようがないし、本人は頑張っているができないということになってしまいます」
⑤時間へのアプローチ
ADHDでは必要になることが多いと言えます。これも本人に合ったやり方が大事で、例えば「カレンダー」を使う場合でも、形は人によってさまざまです。
グループホームでは、面談をタイマー設定するなど、時計を見る意識づけや習慣づけが使えるでしょう。
⑥刺激へのアプローチ
「5S」(整理・整頓・清掃・清潔・しつけ)がありますが、まず「整理」「整頓」が大事です。
「ごちゃごちゃしていると、そちらに気が向いて集中できない」といった場合、環境調整の意味でも重要です。その上で、本人に合った動きやすい構造化を進めていければよいでしょう。
⑦報酬へのアプローチ
これは出来る人には必要なアプローチです。
次の報酬がいつか見通しがたたないと、今気持ちよくなりたいと衝動的な行動につながってしまうので、報酬を分かりやすくすることは安定につながります。
ただ、「報酬がないとできない」ということになってしまわないよう、注意が必要です。
トークンエコノミー法は、知的障害では分かりやすいですし、始めるきっかけにはよいです。でも、「外部的動機付け」なのでそのままずっと続けても、報酬がなくなるとできなくなる、ということがあります。きっかけとしてはじめて、面談などで「内発的動機付け」にシフトできるような対応が必要です。
実際に受講者も困った経験があったそうです。
受講者「本人が主体性を持てるようになればいいのですが、本人がこれに心地良いと感じてもっとトークンのお金が上がらないのかという相談になってしまうことがあります」
兵働「お金のためにではなく、自分の意思でできるようなってほしいのに、お金が目的になっては本末転倒ですよね。いずれ報酬を抜いてもできるようになるために、始める時に、最初の目的を、利用者さまとしっかり話し合っておく必要があります」
⑧役割へのアプローチ
ADHDの特性は、決してマイナスだけではありません。人によって違いはありますが、興味が幅広い、社交性など、「長所を生かす」という視点も大切です。
「長所」「短所」を自分で理解し、苦手な部分を補う工夫を身につけること、そして周りに理解してもらいその上で仕事をすることです。
SHIPの支援方針は「自分でできることを増やす」「障害の部分は補う」なのですが、現場では「福祉慣れ」をして「人にやってもらうのが当たり前」な利用者さまもいます。その場合、まずは自分から外に働きかけていく必要性についての啓発が必要になるでしょう。
⑨お金へのアプローチ
「金銭管理支援」を受けている利用者さまはラファミド八王子でも多いです。やっていても出来ない人も多く、こちらで全部管理をせざるを得ないこともあります。
「お金」「気持ち」「時間」などは抽象的概念なので、数字や言葉で説明してもピンと来ない、実感がわかないということも多いです。クレジットカードだと現金より多く使ってしまうことが多いという実験結果があるそうですが、現金よりも実感がわきづらいからでしょう。
「見える形にする工夫」「マイナスになったときの状況を分かりやすく考える」など、実感しやすくすることが重要です。
受講者「ほとんどの利用者さんがお金は課題ですね」
兵働「お金を使ってしまう理由は、欲求不満が解消できるということもありますね。ご本人のお金の価値観から確認してみるのもいいかもしれません。私たちの価値観の概念と違うものを持っている場合もあるので、それを聞いてみることからアプローチを考えるのもいいでしょう」
【最後に~研修の感想と宿題】
ADHD研修の内容は以上です。
受講者の感想を聞いてみました。
受講者「この研修の内容をADHDの利用者さまと一緒にみて『そうそう』と言えるような場があればいいなと思います。自分自身を知る上でも分かりやすい内容で、現場に活かせると思いました」
兵働「実際にご本人と話す場合、利用者さまのレベルに合わせた内容にする必要はありますね。ご本人の意見も引き出せると支援者もADHDのついて本当にそうなんだなと理解できると思います」
また、SHIP内部研修では、毎回受講者本人に宿題を決めてもらい、各事業所のアービス管理責任者に共有して評価してもらっています。今回の研修に出てきた支援テクニックで、実際にやってみたいと思うことを聞きました。
受講者「自分がやってみようと思うのは、タスク管理研修も受けたので、タスク管理での物事の整理です。あとは、自分自身が感情が出る方なので、情動のコントロールです」
兵働「タスク分解、掃除洗濯買い物日常生活の支援において、自分たちが思う一連の流れと利用者さまのものとが近いのか違うのかを確認することもできますね。情動のコントロールは人それぞれなので、実践するとしっくりくるものが分かるでしょう」
自分がスキルアップしたいことを内部研修で毎月学べる、ただ研修を受けて終わる、でなく「宿題を設定して現場で活かすためにアウトプットする機会を持てる」のがSHIPの内部研修の魅力だなと思います。
利用者さまへの支援にはもちろん、自分自身にも使える内容がたくさんあったと思います。受講者さんにはぜひ、ここで学んだことを実践していってほしいですね。
障害福祉マンガ劇場「人生のてんかん記」作者・パープルカフェ主催・難治性てんかん当事者
元グループホーム(ラファミド八王子)職員・現在は自宅で仕事
国家資格:精神保健福祉士・社会福祉士