【職員インタビュー】課題に入り込み過ぎない「線引き」が大切 ラファミド八王子・篠崎さん
グループホーム「ラファミド八王子」(以下、ラファミド)の世話人の篠崎さんにお話を伺いました。
福祉はまったく未経験で、2021年2月に入社。
運行管理者の資格をお持ちです。
現在、SHIPの資格取得サポート制度※1 を利用して、通信制の専門学校に通い、精神保健福祉士の資格取得を目指しているそうです。
未経験から障害者支援に携わり約1年半、どうだったか、またこれからどうしていきたいかなど、伺いました。
※1 資格取得サポート制度とは?
国家資格を取得するための費用の補助と、実習やスクーリングのためのシフト調整をサポートすることで、働きながら専門職を目指すスタッフを応援する社会福祉法人SHIPの教育支援制度です。
前職はタクシー会社、初めて知った福祉の世界へ
――これまでの経歴、転職までの経緯を教えてください。
篠崎
新卒でタクシー会社に入り、タクシーの運転手、ハイヤーの運転手として働き、内勤もしていました。
前の会社を辞めた後、何をしようか悩んで決まらない時期があったのですが、自動車教習所の教官などいろいろ仕事を探している中で、たまたまラファミドの求人を見つけ、転職をしました。
大学は文学部だったので、福祉の仕事はSHIPが本当に初です。
――SHIPに転職したキッカケを教えてください。
篠崎
私の友達にも発達障害でASD(自閉症スペクトラム障害)の人がいるのですが、ラファミドの求人を見ながら「そういった人たちを支援する仕事もあるんだなぁ」と感じていました。
そして昔から「人の役に立ちたい」という気持ちもあったので、この仕事に興味を持ちはじめました。
入社前、実際に職場(ラファミド)の見学をさせてもらって、前の職場に比べてピリついたところがないというか、柔らかい、フレンドリーな良い雰囲気だと感じ、入社を決めました。
そのときに先輩の職員さんに話を聞かせていただき、どんな仕事かイメージできたのも大きかったです。
――現在の仕事内容を教えてください。
篠崎
ラファミド3棟・4棟の世話人として、現在は4名の利用者様を担当させていただいております。
中軽度(障害の重さ)の精神障害をお持ちの方が多く利用されており、とくに統合失調症の方が多くいらっしゃいます。
お風呂やトイレ、食堂などは共有で使用するタイプのグループホームですが、日常の基本的な生活はご自分でできている方が多く、一人暮らしを目指している方もいらっしゃいます。
日中は、病院のデイケア、エスプリ(同一法人の就労継続支援B型)、それ以外の日中活動先に通っている方が多いです。
みなさんの相談に乗ったり、お金やお薬の管理を一緒に練習させてもらったり、支援機関との情報共有や連携などをおこなっています。
――具体的には、どのようなサポートをされていますか?
篠崎
相談支援の業務は、人間関係や日中の活動先に関するお悩み、お金に関するお悩みも多いですね。
一人暮らしを目指す方だと、ラファミドを退去した後の生活では何が必要になるか、といった相談に乗ることもあります。
利用者様が何を求めているのか・何をしたいのかについて、こちらの押し付けではなく、お話を聴けるように意識しています。
例えば、「活動先に行きません」と抵抗の強い利用者様がいらっしゃいます。よくお話しを聴いてみると「〇〇が不安」といった本音が出てくるので、さらにそこが何なのかを具体化するようにしています。
できる範囲で推測しながら求めていることを伺うようにしていますが、人によって価値観や思考のパターンは違うと思いますので、より力を入れていきたいなと思っています。
外部の支援機関との情報共有や連携について、たとえば病院とのやり取りはよく発生します。
利用者様のお薬の副作用が強いといった場合に、いつもと様子が違うことなどを病院のソーシャルワーカーや主治医にお手紙を出すカタチで共有することがあります。
訪問看護のサービスを利用されている場合は、私たちの心配ごとをお伝えし、看護師さんを経由して主治医からの見立てをもらうこともあります。
また、利用者様の中で気持ちの変化があり、当初の目標と変わってしまったり、明確になっていないときなどには、病院や日中活動先、相談支援専門員などに呼びかけて、ケースカンファレンスをおこなうこともあります。
そのような連携を図りながら、利用者様の本当に望むことを確認し、関わる支援者みんなでサポートできるようにしています。
――そのほかの支援の内容も教えてもらえますか?
篠崎
服薬管理の支援は、飲み忘れのある利用者様には目視での確認をさせていただきます。
OD(オーバードーズ:過量服薬)傾向の利用者様とは、お話し合いのうえで預からせてもらって、処方通りの服用をサポートしています。
統合失調症など薬物療法が治療の中心となる病気の場合は、お薬に関する支援がとても重要になってきます。
金銭管理の支援は、一ヶ月の自己管理を目指していきます。
一日、一週間、二週間と、自己管理できる期間を少しずつ伸ばしていくようなイメージです。
使いすぎてしまう利用者様とは、まずは買い物の記録をつける、ムリなく節約できるところはないか話し合うなど、小さな目標からステップアップしていけるような支援をおこなっています。
「なんで自分のお金なのに、思う通り使わせてくれないんだ」という不満が出ることもあり、正直むずかしさを感じることは多いです。
でも、お金は生活にとても大切なことです。
他のグループホームでは金銭管理に力を入れている所はあまりないという話を聞いたこともあるのですが、ラファミドではちゃんと力を入れていきたいと思っています。
利用者様との「距離感」のむずかしさ
――仕事のやりがい、大変なことを教えてください。
篠崎
やりがいは、利用者様と設定した目標を、達成していく姿が見られることです。
むずかしい場合も多いのですが、小さなことでも「できました!」と報告に来てくださると、こころの底から嬉しいなぁと思います。
大変なところは、利用者様の目標に、自分が入り込み過ぎてしまうことです。
目標達成に向けて頑張るのは利用者様ご本人です。
当たり前ですが、こちらができる範囲もあれば、できない範囲も出てきます。
そこで支援者側が「頑張ってほしい!」「何とかしたい!」となり過ぎると、自分と利用者様の境界線が歪んできて大変さを感じてしまいます。
あとは、利用者様との関係性についてです。
よい関係を保ちたいのですが、お金の使い方や管理方法について意見の衝突などが発生することもあります。
この部分は、ある意味仕方ないとは思います。
逆に、距離が近過ぎて、友だちのような関係になってしまう方が、大変だと思います。
支援者が利用者様のご機嫌を窺がうように何でも要望を受け入れてしまうと、たとえば「(間違っていることでも)強く言えば叶うんだ」といったような誤学習を強めてしまいます。
これでは「できる部分を増やす」という自立支援の考えから離れてしまいます。
そうならないように、敬語を使うのはもちろんですが、利用者様と支援者はそういう関係ではないことを説明して、線引きをしっかりとしています。
毎朝、みなさんのお部屋を訪問しているんですけれど、たまたまおむつの状態で「入っていいよ」と通してくださった利用者様がいらっしゃって、「それはちょっと違いますよね」とお話しすることがありました。
身近な存在なので、ご本人は気にしないのかも知れませんが、やっぱりおむつの状態で人前に出ることを良しとはできません。
「支援される部分を少なくし、自分のできる部分を増やすこと」のSHIPの支援の基本理念のもと、社会的・客観的な視点から、適切な支援を提供できるように気をつけています。
上司のサポートと研修で、入社一年目の悩みを乗り切れた
――未経験で転職してみて、どうでしたか?
篠崎
今は普通に働けていますが、入社して一年目は、正直、悩むことも多く、大変でした。
利用者様の課題が進まないでいると「もっと自分がうまく支援しなければ」と、かなり悩みました。
そして、気づかない内に利用者様へ自分の考えを押し付けてしまい、それで関係が悪くなって、うまくいかなくなってさらに悩む、という悪循環に陥っていました。
本当に悩んでいた出来事を少しお話しします。担当していた利用者様のお金の使い方が崩れてしまったときのことです。
「なんでお金を出してくれないんだ(怒)」などと強く感情をぶつけられて、でもお金をお渡しすると破綻してしまう状況で、当時の自分には支援力もなく、ストレスが溜まって本当につらかったです。
そのとき、上司がすごく話を聞いてくださり、改善方法を提案してくれました。
一旦、先輩職員と担当を変えてもらうなど、職場の環境や業務の調整をしてくれたおかげて、なんとか乗り切れた経験があります。
また、認知行動療法の研修を受けて、自分の考え方のクセを客観的に見られるように努力しました。
入社したての頃に比べて「なぜ自分はこう考えるのか?」などと俯瞰してとらえられるようになり、自分自身についても少し分かってきたとも思います。
――職場の雰囲気、魅力を教えてください。
篠崎
落ち着いた人が多いと思います。
福祉の世界は今の職場しか知りませんが、福祉っぽいイメージ通りというか、みなさん優しいです。
「何か手伝うことないですか」などとよく声を掛けてもらえます。
本当に未経験で入社したのですが、現場の上司からも、事務局の新人研修でも、「そもそも福祉サービスとはどういうものか」というところから教えてもらえました。
精神障害の症状についての研修、心理療法に関する研修、ビジネス研修(SMBCビジネスセミナー)など、たくさん学ぶ機会があるので、未経験からでも働きやすいと実感しています。
先日に受講したビジネス研修は「行動力とは何か」という内容でした。
わたしの場合、初めての業務は一回 様子見するタイプなのですが、「人はなぜ行動を起こすまでに時間がかかるのか?」という理論を聞きながら、「なるほど、たしかに・・・」と感じました。
行動するためには、ハードルを下げる、行動を分解する、といった方法を研修で学べたので、さっそく実践したいと思っています。
――その他、SHIPの5つの魅力については、実際に現場で働いてみてどう感じていますか。
篠崎
給与は、転職前とくらべてそれほど下がらず、全然暮らしていけています。
資格を取ったり役職に就くことで給与が上がりますし、それとは別に毎年の昇給もあるので、自分としては満足しています。
休みは、正直めちゃくちゃ充実しています。
カレンダー通りの日数は必ず休みをもらえますし、当たり前ですが有給休暇もありますし、あと夏と冬に3日間の休みをもらえるのはありがたいです。
残業もナシです。
イレギュラーな対応のときは残業になる場合もありますが、普段から業務時間内で仕事が終わるように、時間がかかる業務の効率化などを職員のみんなと話し合って改善しているので、今のところ残業ナシで回っています。
また、12時~13時のお昼休憩も、緊急時以外は対応しないことを利用者様にも理解していただいているので、しっかりと休めています。
職員サポート相談室は使ったことがありませんが、こういうものがあると、相談しづらいことでも何かあったら相談できるのかなぁと思うので、安心につながります。
――今後の目標、課題を教えてください。
篠崎
まずは国家資格の取得です。
資格取得サポート制度を利用して、精神保健福祉士の通信制の学校に通わせてもらっています。
未経験で福祉の知識は知らないことが多いと感じているので、そこをカバーできるようになりたいです。
仕事の後や休日がレポートでつぶれてしまうこともあり大変ですが、学ぶ内容は仕事に直結しているので、比較的すんなり頭に入ってくると感じています。
ゆくゆくはサービス管理責任者になりたいと思いますし、他の事業所の仕事も見てみたいです。
近くにエスプリ(就労継続支援B型)があって連携することも多いですが、普段はグループホームでの生活の場面しか見ていないので、実際にはどのように作業をしているのか見てみたいと思います。
――どんな人と働きたい、どんな人がSHIPに向いていると思いますか。
篠崎
利用者様が何を考えているかに興味・疑問を持てる人です。
私も上司に言われたのですが、人の行動には意味があるので、なぜ利用者様がそんな行動を取るのか、些細なことに疑問を持てる人が良いと思います。
また、新しいことを取り入れたり改善したりと、変化が求められる事業所だと思います。
逆に自由な部分もすごく多く、自分でやりたいことを発信したらやらせてくれる環境なので、発信できる人は働きやすいと思います。
以前にラファミド八王子でおこなっていたダイエットクラブを「またやりたい!」という利用者様がいらっしゃるので、今度はわたしが再開できるよう提案したいなと思っています。
そういった主体的な支援の動きが柔軟にやりやすい職場だと思います。
――最後に、福祉で長く働くために必要なことは何だと思いますか。
篠崎
「課題の分離」とよく言いますが、利用者様の課題を自分ごととして捉えたり抱え込み過ぎないこと、その線引きが大事だと思います。
そこができていないと、自分自身がしんどくなってしまいます。
課題をやるかやらないかは、結局のところは利用者様次第でもあるので、自分が支援者としてやれることは頑張ってみて、それでもダメだったら、仕方ないと割り切ることも必要です。
その上で、また別の支援の道を考えていけばよいと考えています。
篠崎さん、ありがとうございました。自分自身への理解を深めながら、頑張ってほしいですね。
ダイエットクラブは私も関わっていましたし、必要としている利用者様がいる、これからも多いのではないかと思いますので、ぜひ復活を実現させていただきたいです!
障害福祉マンガ劇場「人生のてんかん記」作者・パープルカフェ主催・難治性てんかん当事者
元グループホーム(ラファミド八王子)職員・現在は自宅で仕事
国家資格:精神保健福祉士・社会福祉士