【職員インタビュー】「『当たり前』の支援にハッとさせられた」子笑 沖吉さん
放課後等デイサービス「子笑」(以下、子笑(こえみ))の児童指導員、沖吉さんにお話を伺いました。
長年働いてきた高齢福祉の介護職から転職し、2023年の2月に入社されました。介護福祉士、幼稚園教諭の資格をお持ちです。
介護業界から障害者支援への転職の理由や、前の職場との違いなども伺いました。
節目の年齢で、新しいチャレンジへ
――簡単な経歴を教えてもらえますか?
沖吉
前職は、デイサービスや訪問介護などで、15年ほど働いていました。その前も介護関係の仕事をしていましたが、元々は、短期大学で幼稚園教諭の資格を取り、保育園に2~3年ほど非常勤で勤めていました。
介護職をしていた母の影響で自分もやってみたいと思うようになり、転職のために、鹿児島県奄美諸島から上京しました。当時、介護の資格は持っていませんでしたが、友人のつてですぐに介護職に就くことができ、働きながら介護福祉士の資格を取りました。
その後、子どもが3人生まれて育児に専念、ひと段落ついたら非常勤で仕事に復帰、というくり返しでした。
昨年「子笑」に転職して、現在、ようやく1年になるところです。
障害福祉の仕事に就くのはこれが初めてで、介護とは全く違う新しい職種なので、やってみたい気持ちと不安とがありました。
――つぎに、転職の理由、そしてSHIPに入社したキッカケを教えてください。
沖吉
節目の年齢になり、両親も高齢になり心配だったので、家族で奄美の方へUターンしようかと考えました。
島で家族と暮らしながら農業をやるなり福祉職に就くなりしようかと思ったのですが、両親から「まだ大丈夫だから、やりたいことをやりなさい」と言ってもらえました。それでせっかくなら、新しいことを定年までやってみたいと思いました。
転職を考えている中で、たまたまママ友を通して障害者支援の仕事を知りました。お子さんが障害をお持ちで、ご自身も作業所にパートにお勤めで、とても熱心に勉強されている方でした。
いろいろお話を聞いて興味を持ち、「私も何か力になれることがあれば」と考え、放課後等デイサービスなら幼稚園教諭の資格も活かせると考えはじめました。
転職先として「子笑」を選んだのは、まだ小学生の息子に休みを合わせられることと、お仕事の内容にすごく魅力を感じ、やってみたいと思ったからです。
求人の募集要項や「子笑」のホームページを見て、「子どもたちの放課後の一連をサポート」という仕事内容に惹かれました。また、「一人ひとりにあった生活習慣の支援」「将来までを見据えた社会生活の支援」という理念が、とても深いと感じました。
ひと言で生活習慣といっても、私たちが「普段できて当たり前だと思っていたことが当たり前ではない」ということにハッとさせられました。またそれを段階的に一つひとつサポートしていくことが、子どもたちの将来につながっていくのだなぁと思いました。
他にも色々な会社の求人内容を見たのですが、「子笑」のような考え方や取り組みをイメージできる施設はありませんでした。せっかく新しくやりたいことをやるのであれば、今度はこういうしっかりした考えの基でやりたいと思いました。
年齢的にも転職はギリギリでしたが、これからを生きていく子どもたちの将来への希望が湧く、とても魅力的な仕事だと思い、思い切ってチャレンジしてみることにしました。
――現在の「子笑」での仕事内容を教えてもらえますか?
沖吉
小学生から高校生までのお子さまをお預かりして、放課後や長期の休みの支援、学校や自宅までの送迎をしています。ASD(自閉症スペクトラム障害)やダウン症などの障害をお持ちのいろいろなお子さまがいらっしゃいます。
その日のスケジュールに沿って、個別プログラムの提供、季節毎のイベントに合わせた創作活動などをしています。
お子さまが来る前の時間帯には、個別プログラムの準備や自立支援課題を作成しています。
自立支援課題は、最初はどういったものが良いか分からず「子笑」にある既存のものを提供していたのですが、今では一人ひとりの課題に合うものを、自分でも作成するようになりました。
――具体的にはどういった「自立支援課題」を作成して、提供しているのでしょうか?
沖吉
例えば、袋に物を詰める「封入作業」があります。
三つ折りにした紙を封筒に入れる課題で、高校生のお子さまのために将来の仕事も見据えて取り入れました。
私から見ると簡単な作業だと思ったのですが、実はなかなか上手く行かず、失敗をくり返してしまいました。そのお子さまは微細運動(手指を使った細かい動き)が苦手で、袋と紙が柔らかくて入れづらそうでした。
児童発達支援管理責任者の出浦さんにも相談したところ、「まずは掴みやすい硬いものを入れる作業がいいのでは?」とアドバイスをもらいました。そこで、試行錯誤をくりかえし、入れる紙をラミネートしてつかみやすくし、封筒ではなくビニールの袋にするとうまくいきました!
個別支援が大切とはよく言われますが、お子さまの学習スタイルによって、合う・合わないがあるのだと実感しました。
合わない課題で「自分はできないんだ…」と思ってしまわないよう、なるべく個別の「できそうな課題」を増やして自信をつけてもらうようにしています。
他には「マッチング」があります。小学生から、高校生のお子さまでも行うのですが、「絵合わせ」のような課題です。
車が好きな子には、車のエンブレムとトヨタや日産などの社名をマッチさせるアイデアを。電車が好きな子だったら、総武線や横浜線などのマークに車両のカードなどを。好きな物や得意なことに合わせて作成しています。
その他、穴をあけた厚紙に紐を通す課題など、個別の支援計画に沿ってその子に合う活動を提供しています。
介護職とはまったく違うコミュニケーションの「距離感」
――介護職から転職してみて、どんな違いを感じましたか?
沖吉
利用者様とのコミュニケーションや距離の取り方がかなり違うと感じました。
高齢者への介護は身体の接触の多い職場でした。常に背中をさすったり、声をかけたり、近くでコミュニケーションを取ることが基本でした。また、はなし言葉での会話が中心でした。
子笑では真逆で、なるべく身体接触はナシに、はなし言葉だけでなく視覚的ツールを活用してコミュニケーションを取ります。
身体接触を多くしてしまうと子どもたちもそれを真似て、誰にでも接触してしまう可能性が出てしまいます。
また言語理解のスピードがゆっくりのお子さまや、聴覚よりも視覚的に理解することの得意なお子さまが多いため、このような配慮をしています。
最初のうちは、距離感は前職とかなり違うし、言葉での会話も上手く伝わらない、視覚情報の提示のタイミングも分からず、どう接していいかかなり戸惑いました。
とにかく上司や先輩に「こういうときはどうすればいいんですか?」と常に聞いて動いていました。
――「子笑」での仕事のやりがい、そして大変なことを教えてください。
沖吉
やりがい・大変なこと、どちらも「コミュニケーション」です。
最初は本当にどう接していいか分からなかったので上司や先輩に相談して、「会話ではなく、カードや指を使っての視覚情報を活用して伝えていく」ということを教えていただきました。
だんだん伝えたいことがくみ取れるようになって来たときのこと、お子さまが「分かってくれた」という明るい表情をしてくれたことがありました。ほんの少しのことですが、そのとき「あ、コミュニケーションが上手く取れた!」と、喜びとやりがいを感じました。
子どもたちからの「試され行動」にも戸惑いました。
他の職員さんが関わるとスケジュール通りスムーズに動くお子さまがいました。でも私が担当するとなかなか聞いてくれないというか、スケジュールとはちがう行動をするのです。
「この職員の場合はどこまでやってもいいのかな?」と試されている感じがしました・・・
自分なりに「今はこの時間です!」と視覚情報で伝えてみるのですが、なかなか上手く伝わりません。
先輩のやり方を見てみると、メリハリをつけた誘導、短い単語でハッキリ伝える、そんな違いがあることに気づきました。
そしてお子さまたちが私の誘導でもスケジュール通りにできるようになったとき、「あぁ、私にも出来た。このやり方でいいんだ!」と感じることができたことを覚えています。
支援以外にもやることが多く、特にパソコン業務は慣れなくて大変でした。
記録や自立支援課題の作成もパソコンを使うことが多いのですが、ようやく慣れてきました。
事務作業ではなんと言っても「ブログを作成できた!」という経験が自分の中では大きかったです。小さなことでも「私にもできた」という喜びがあり、上司が一緒にすごく喜んでくれたことは嬉しかったです。
介護職では本当に簡単なWordとExcelの入力くらいでした。記録と写真をプリントアウトしてコメントを載せるくらいの事務作業でした。ですから「子笑」でパソコンを使って自分で何かを作るという経験は本当に初めてでした。
先輩スタッフの徳永さんや川畑さんはパソコンが得意で「何でも聞いて」と言ってくれますし、すぐに作業の手を止めて教えてくれます。私のすぐ後に入った石川さんとは励まし合いながら切磋琢磨しています。本当にみなさんに支えられて一年間やってくることができました!
――「子笑」で、とくに力を入れているサービスを教えてもらえますか?
沖吉
個々に合わせた支援には力を入れています。
それはもちろんなのですが、「グループワーク」にも力を入れています。
夏休みなどの長期のお休みだと、小さい子と大きい子が一緒に過ごす時間も増えてきます。
小さいお子さまがお兄さんお姉さん方の取り組みに触発され、野球をやったり、絵を描いたり、そういったグループ活動にみんなで取り組みました。
このような集団の場でも、ルールに沿って順番にやるといった社会性を育んでいくプロセスは定型発達の子と同じだな、と感じました。
「子笑」の近所にはグラウンドがあるので、身体を動かすスポーツ活動もできてしまうのは子笑ならではの特長だと思います。
また「環境調整」にも力を入れています。
お子さまの年齢層によって、「にこにこルーム(小学生~中学生)」と「ぐんぐんルーム(中学生~高校生)」の部屋分けをしています。
成長の具合や状況に応じて、環境を子どもたちに合わせて変えていくという視点はとても大事だと感じています。
一年働いてみて思うのですが、職員も環境の一部だな、ということはとても実感しています。
柔軟かつ統一感のある「職場の環境」
――「職員も環境の一部」ということですが、職場の雰囲気・魅力を教えてください。
沖吉
みなさん考え方が柔軟で、適応力もあって、素晴らしい支援者だなと思います。
それに、本当に相談しやすいです!
また、個性は違えど「統一感」があります。
介護職のときは、職員ごとに独自のやり方があって、利用者様への対応がまちまちでした。
本当はこの対応をしなければならないのに、なぜみんな違うやり方をするのだろうと、疑問に感じるところがありました。
「子笑」では支援の考え方が共有され、お子さまへの関わり方も統一されています。
そのような統一感のないところにストレスを感じることもありましたが、ここでは支援の方針が職員間で共有されていてブレないので、とてもやりやすさを感じます。
SHIPの法人理念を一つを見ても「私はすごくハードルの高いところに来たんだな」と、身が引き締まる思いをしています。
理念の中の「挑戦」の項目にある「常識にとらわれず考え、リスクを恐れず突き進む」という部分に共感が持てます。私自身、チャレンジしようと前向きな気持ちになれるからです。
いろいろな考えをベースに、一つのやり方ではなく、ダメだったらダメで何度も挑戦する、前向きな思いの会社だなと思います。
実際働いてみて、一人ひとりが、まさしく理念の通り力を出し合い、一所懸命な職場だなと感じています。
――その他、SHIPの5つの魅力について、働きやすさなどは実際どう感じていますか?
沖吉
お給料は良いと思います。とくに賞与が高いと感じています。
前職は同じ福祉でも個人経営の会社だったためか、賞与などはSHIPよりも少なかった印象です。
また現在は、自分の仕事のやり方によってお給料も変わるので、すごく魅力的で、頑張れると思います。
お休みは良いです、最高(笑)!
私はまだ小学生の子どもがいるので、休みが合わせられるのはすごく良かったと感じています。
残業は必要以上に課せられることはありません。ただ、私がまだまだパソコンに不慣れなため事務的業務が追い付かず、個人的に残ってしまうことはありますね。少しずつ慣れて要領よくできるようにしたいです。
キャリアアップや資格取得については、まだ大学生の子どももいますし、子育て中は取り組める状態ではないかと思いますが、勉強したい気持ちはあります。数年後を見据えて、精神保健福祉士などの取得を目指してみたいなとは考えています。
「職員サポート相談室」などの相談制度は、今まで働いてきた福祉の職場にはなかったのですごく良いなと思います。
前職では、精神的に悩み、でも相談する暇もなく、やっと上司に相談できても結局は辞めてしまう・・・ という同僚たちを見てきました。
また、どこでつまずいているかなど自分ではよく分かっていない部分も、相談窓口を通すと見えてくるのではないかと思います。
――今後の目標や課題を教えてください。
沖吉
一年経った今思うことは、内部研修だけでなく、外部研修を受けてのスキルアップの必要性です。
ようやく一年なのですが、自分としては、行事に追われ、事務仕事にも追われ、ただ一年間先輩を見て走ってきたというイメージがあります。
内部研修には参加して学ぶことはできてきました。今度は外部の研修を受けてみて、もっと良い支援ができるようにスキルアップを目指したいという思いがあります。
昨年はそういった余裕はなかったので、今年からは参加していきたいと思います。
さっそく参加したいと思っている外部研修は『ダウン症を対象にした関わり方』の研修です。「子笑」にはダウン症をお持ちのお子さまもいらっしゃるので、これからも積極的に学んでいきたいと考えています。
「やめたい」と何度も思ったけれど、続けられた理由は?
――今後どんな人と働きたい、どんな人がSHIPに向いていると思いますか?
沖吉
私も50歳でチャレンジしていますので、「意欲のある人」ですね。
年齢に関わらず挑戦できる職場じゃないかと思います。
あとは、放課後等デイサービスだとお子さまが相手なので、安心感を持って接することができる方、子どもの気持ちをくみ取って理解される方、思いやりのある方だと、すごく向いているのかなと思います。
――最後に、福祉でながく働くために必要なことは何だと思いますか。
沖吉
やっぱり、職員間の人間関係がすごく大事だと思います。
悩むことや辛いことがどうしてもある中、他の職員さんからの声かけがあると、この仕事は続けていけるのかなと思います。
私も実際、ここ一年間、ああもうできないな、やめたいなと何度も思ったのですが、まわりの職員さんのサポートがあって続けて来れました。
「子笑」の職場が不満なわけではなく、自分自身の力不足を感じてのことなんですが、「できない」「分からない」というとき、聞いて・教えてもらえ、常に声をかけてもらえたという経験が、本当に心強かったです。
まわりのサポートもあり、メンタル的にへこんでしまっても「よし、次は頑張るぞ!」と気持ちを切り替えられたことも大事だったと思います。
あとは支援が上手くいって子どもたちの成長が見られる、という支援者としての成功体験を積み重ねられたことも、この仕事を続けるための励みになったと思います。
沖吉さん、ありがとうございました。
新しいチャレンジに試行錯誤された一年間のご様子がうかがえました。
そして、新たな支援観をつかみ成長されているご様子もうかがえました。
これからのチャレンジも期待しています!
障害福祉マンガ劇場「人生のてんかん記」作者・パープルカフェ主催・難治性てんかん当事者
元グループホーム(ラファミド八王子)職員・現在は自宅で仕事
国家資格:精神保健福祉士・社会福祉士