【職員インタビュー】「TEACCHを学び、その人に合った支援をしたい」生活介護「笑(えみ)」勝井さん
生活介護「笑(えみ)」の生活支援員の勝井さんにお話を伺いました。
前職の知的障害者向け入所施設から転職され、2022年8月にSHIPへ入社されました。
「根拠」や「統一性」のある支援を求めての転職
――簡単な経歴を教えてもらえますか?
勝井
管理栄養士の大学に4年間通い、知的障害者の入所施設に就職して1年間ほど働き、転職してSHIPに入社しました。
大学のころは、卒業後は福祉施設で献立を考える仕事をしたいという気持ちがあり、他には食品分析の仕事に就きたいとも考えていました。
SHIPでは生活介護「笑プラス」で約1年半働き、今年の2月に生活介護「笑(えみ)」に異動しました。
――SHIPに転職したキッカケを教えてください。
勝井
入所施設で働いていたときに、自分の支援には根拠があるのだろうか、本当に利用者様のためになっているのかと疑問を抱くことが増え、転職を考えました。
支援の中では、よく「関係性の構築が重要!」と言われていますが、前職では、利用者様と支援者との関係性や対応が人によって違っていました。
利用者様への態度が強めの支援者と、優しい支援者とに分かれていて、前者の方は厳しい口調や態度でまとめていくのですが、後者にシフトを交代した途端、利用者様が崩れてしまうというようなことが頻繁にありました。
一見まとめているようでも、強い口調で言い聞かせるのはどうなのかと疑問でしたし、もっと統一した支援をしたい、なぜこの対応をするのかという理由を重視したいという思いがありました。
SHIPは転職サイトを調べて見つけましたが、TEACCHプログラムに基づいた支援に取り組んでおり、根拠を大事にしていると聞いて興味が湧き、家から比較的近いこともあり、応募させてもらいました。
公式のない「一人ひとりに合った支援」の構築がやりがい
――現在の仕事内容を教えてください。
勝井
日中は直接支援にあたり、作業の見守りや外出の同行をおこなっています。担当する利用者様の日々の様子を観察して記録し、主任やサービス管理責任者とともに、支援の内容や今後の展開について話し合います。
一番興味深く感じていることは、支援を組み立てていくプロセスです。個別支援計画を更新し、それに基づく具体的な取り組みを話し合って決めるのですが、その人に合ったものを考えることが必要で、難しくもあり、とても楽しい仕事です。
支援の構築に必要なことは、第一に観察だと思います。何が得意で、何が不得意か、またASD(自閉スペクトラム症)の学習スタイルや障害特性などを踏まえて観察し、それらの情報を元に、一人ひとりの自立度を高められるような取り組みを考えます。
――生活介護「笑(えみ)」には、どのような利用者様がいらっしゃいますか?
勝井
現在20名の重度の知的障害をお持ちの方が利用されています。
異動前の生活介護「笑プラス」に比べると、強度の強い他害の発生頻度が低く、口頭でのコミュニケーションができる方が多いという印象をもちました。
しかし、実際に関わりを持たせていただくと、単にエコラリアであったり、会話が一方通行だったり、こちらが話している意味を理解されていなかったりと、一見やり取りができているようで内容はかみ合わないということが多いです。
利用者様の平均年齢は約35歳ですが、19歳から64歳まで、幅広い年齢の方がいらっしゃいます。
――仕事のやりがい、そして大変なことを教えてください。
勝井
その方に合わせた支援を考えることが一番のやりがいであり、同時に一番難しいことでもあると思います。
TEACCHの一つの特徴として、一人ひとり異なる物事の考え方やとらえ方に合わせて、物事を理解し、見通しをもちながら過ごせるようにしていく、「Structured TEACCHing(構造化)」というものがあります。
数学だと公式に当てはめれば答えを導き出せますが、こと支援に関しては、公式のようなものはほとんどない中で、一人ひとりに合った環境調整、情報の提示方法等を探っていくことになります。
だからこそ、支援がバチっとはまるとすごく嬉しいです。自分の考えが合っていたんだ、仮説が正しかったんだと思うと自信が持てますし、それによって利用者様が一人でできることが増えると「本当にすごいな!」と感じます。
観察と仮説から導いた自立のエピソード
――具体的に「一人でできるようになった支援」として、どんなエピソードが印象に残っていますか?
勝井
送迎時のエピソードが印象に残っています。
目的地に到着する前にシートベルトを外されてしまう利用者様がいらっしゃったのですが、「視覚情報に強い」という特性を活かし、シートベルトの着脱カードを作成しました。
シートベルトの着脱を行っていただきたいタイミングで職員がカードを見せ、実際に付け外しをしていただく、という流れをつくることで、到着前にご自身のタイミングでシートベルトを外す行動はなくなりました。
他に、待機時間におけるエピソードもあります。
何をするか明確ではない待機時間が苦手で、自傷に発展することもある利用者様がいらっしゃるのですが、それまで待機時間は机上にタイマーを設置するだけであり、何をして過ごすのか明確ではありませんでした。
そこで、ご本人が好みそうな余暇(粘土)を提供したのですが、興味が強すぎて次の活動に切り替えることが難しく、提供は中止となりました。
その後、机上にタイマーを設置するだけでなく、クッションとブランケットを提供することで、以前より少しだけやることを明確にしてみました。
すると、以前より自傷する頻度は下がったので、「いつ・どこで・何をする?」ということは明確にしなければならないんだなと改めて思いました。
また、一見成功したことであっても本当に妥当な見立てだったのか、なぜ成功したのかを考えることも大切にしています。
――勝井さんは余暇支援のブログを書かれていましたが、そのことも教えてもらえますか?
勝井
自分が考えたものではありませんが、余暇を過ごすためのグッズとして、『マグネットタブレット』を取り入れたことで余暇の幅を広げられた事例がありました。
マグネットタブレットには磁石の球が無数に埋め込んであって、磁石のペンを近付けることで球が浮き上がって模様ができるというものです。
以前はふつうの『お絵描きボード』を使っていたのですが、その利用者様は筆圧がとても強くて、すぐにボードが壊れてしまいます。
どうすればいいかと悩んでいたところ、『お絵描きボード』と似た要素がある上、ペンが消耗しない『マグネットタブレット』のことを他の支援者から提案してもらいました。
実際に試してみたところ、すごく集中して熱心に取り組まれていました。その姿を見ながら「この余暇グッズは、本当にこの人に合っているんだなぁ」としみじみ実感しました。
勉強しがいのある、自慢したい職場
――職場の雰囲気、魅力を、前職との違いも含めて教えてください。
勝井
生活介護「笑(えみ)」の支援者の姿勢として一番素晴らしいと思うところは、試行錯誤のくり返しの中、なんとかその方にあったものを提供するというゴールへの強い意思が感じられるところです。
この部分は、本当にたくさんの人たちに自慢したいくらいです。
支援者それぞれ考え方の違いによる議論は発生しますが、いろんな意見があることも含めて、勉強しがいのある場所だと思います。
勉強熱心な人が多いのはもちろんですが、芯が一本通っている人、人間関係の配慮ができる人など、いろんな人がいて、それぞれから学ぶべきところがあります。
非常勤パートのスタッフさんたちも、毎日現場に入っていて、その日の支援について打ち合わせをしながら連携していきます。
実際に、非常勤パートのスタッフさんからも支援についての提案や意見をもらうこともあります。10年もの長期間にわたって勤めている方もいらっしゃるので、いつも私とは違う発想をいただいており、とてもためになっています。
――働きやすさの点ではどうですか?
勝井
働きやすいと思います。休みはとても取りやすいですし、体調などについてもすごく気を遣っていただけるので、申し訳なさを感じるとともに本当に感謝しています。
給料も前職より上がったので、とても満足しています。
改善してほしい点をあえて挙げるなら、生活介護「笑(えみ)」は建物の面積が手狭なため、物理的な構造化支援が難しいのが悩みです。できれば建物が大きくなって欲しいですね(笑)
ほかは特に思いつきません。
TEACCHの理解を深め、支援に還元したい
――今後の目標、課題を教えてください。
勝井
TEACCHプログラムの勉強です。
「TEACCHに取り組んでいる」とは言っていますが、ちゃんと理解しているかと聞かれると正直まだ自信がないという現状です。
TEACCHは『構造化』の部分だけ表面的にとらえられてしまい、「その人に合った環境を考える」という本質の部分が省かれてしまうことが多いと言われています。
例えば、「とにかく静かに支援していればいい」「パーテーションを立てておけばいい」といったように、構造化だけが一人歩きしていることが問題として指摘されています。
私自身も「トランジションエリアを導入したらいいんでしょ」と思っていた時期がありました。
でも、「それは違うんだよ、大事なのは一人ひとりを理解することなんだよ」と教えてもらい、自分の勉強不足に気づかされました。
まずは、9月に外部研修に行く予定なので、ちゃんと勉強して、利用者様に還元できるようになれたらと思います。
それと、TEACCHの公認専門職のプラクティショナーになりたいと考えています。周りにはまだいないので、TEACCHについて正しい知識を自分自身に身につけると同時に、周りの人にも伝えていけるようになれればと思います。
他に今取り組みたいことは、愛着障害についての勉強です。
利用者様の中には虐待を受けた方が多いという話を聞き、虐待と愛着障害は切っても切り離せないなと思うので、その方に対する理解を深めるために、愛着障害を勉強する予定です。
――とても熱心に勉強されているのですね。
――話は変わりますが、どんな人と働きたい・どんな人がSHIPに向いていると思いますか?
勝井
勉強熱心な人、意識の高い人が向いているのではないかと思います。
その理由は、ただ与えられた仕事をこなすような仕事だと上手くいかず、結果としてつらい思いをすると思うからです。
利用者様一人ひとりの理解を深めないと支援はできないので、TEACCHについて学ぶだけでなく、他の支援者からもいろいろなケースについて積極的に聞いて学ぶことが必要だと思います。
「どういう理由で、どんなアプローチをしたら、どんなことができるようになったか」について、聞いたり勉強したりして、自分でも試してみることが大切です。
失敗はしてもよいのですが、そこから何を学ぶのか、次にどう活かすのか、その過程が大事だと思います
いろいろな事例から学ぶことは時間もかかりますし、考えることも多くて大変です。
だからこそSHIPでは、自分で考え、積極的に取り組む姿勢が求められているのだと思います。
――最後に、このインタビューのまとめをお願いしてもよろしいでしょうか?
勝井
「人」を理解するのは非常に難しいなと、改めて思いました。
人というのは利用者様だけでなく一緒に働く支援者なども含めてのことです。
すべてを理解するのは難しいのですが、それでも関わり方を探していくこと、相手の長所を見つけていくことが、支援や組織を良くしていくために大事なことだと気づかされました。
勝井さん、ありがとうございました。
本当に仕事が楽しいという気持ちや、専門性を身に付けて力を付けたい、自分だけでなく周りにも伝えたいという目標に向けての熱い気持ちが伝わってきました。
将来的にはSHIPにおけるTEACCHの第一人者となってくれるのを期待したいですね!
障害福祉マンガ劇場「人生のてんかん記」作者・パープルカフェ主催・難治性てんかん当事者
元グループホーム(ラファミド八王子)職員・現在は自宅で仕事
国家資格:精神保健福祉士・社会福祉士