【育成担当インタビュー】「未経験でも大丈夫!:新人研修で未来の支援者を育成中」SHIP 原田さん

育成担当スタッフの原田さん、福祉のキャリアは20年を超えるベテランスタッフさんです。

重度知的障害者向けの生活介護(デイサービス)で人材育成を進めています。

今回は新人スタッフの方々への育成方針についてお話を聞いてみました。

 

「変化のとき」を迎える支援の現場

――原田さんは重度知的障害者の支援に長く携わっていますが、とくに大変だったことはありますか?

 

原田

すべてが良い経験になったと思うばかりです(笑)

むしろ、これからが大変になると感じています。

 

約20年前、入所施設では成人した利用者様を「〇〇くん」「〇〇ちゃん」と呼ぶなど、虐待に対する意識が曖昧でした。

また当時は、利用者様と食事を共にし、休憩という概念がありませんでした。

時代は変わって、今では「〇〇さん」付けで呼び、スタッフの休憩時間もきちんと確保した上で、リフレッシュして支援にあたってもらうことが通常です。

それが『権利擁護(障害者の権利を守ること)』につながっていくという考え方が当たり前の時代になりました。

 

このような時代の流れに組織全体が順応していくことは大変なチャレンジになると感じていますし、私たちSHIPでも同様のチャレンジを続けているところです。

年齢もキャリアも違う人たちが、お互いにそのギャップを受け入れながら最良の方向性を共有して進めるよう、新たな道を模索している最中です。

 

 

――以前よりも厳密に規律を守らなければならなくなったということですね。

 

原田

SHIPでは、他の施設では断られてしまうような強度行動障害の方々を受け入れて、施設から出て地域で当たり前に暮らしていく社会づくりを目指しています。

だからこそ、先ほどのチャレンジはより複雑なものとなります。通常の規則や枠組みでは対応できない事態がどうしても発生します。

 

たとえば、利用者様の自傷他害と身体拘束についてはいつも悩むところです。

原則として禁止されている身体拘束ですが、その判断は3要件(切迫性、非代替性、一時性)を確認した上でおこなうことが例外として認められています。

そして、もし身体拘束をおこなった場合には、きちんと記録を残し、事後にはその妥当性を検証するなど、以前よりも厳格な対応が法律で定められています。

専門性を追究すること、スタッフの安全性を確保すること、キャリアと個性を活かすこと、法律や規則を守ることなど、これらのバランスを取りながら強度行動障害のある人たちの地域生活を実現することは、本当に大変なチャレンジだと感じています。

 

強度行動障害とは?

○ 自分の体を叩いたり食べられないものを口に入れる、危険につながる飛び出しなど、本人の健康を損ねる行動

○ 他人を叩いたり物を壊す、大泣きが何時間も続くなど、周囲の人のくらしに影響を及ぼす行動

○ このような行動が著しく高い頻度で起こるため、継続的に特別に配慮された支援が必要になっている状態

 

 

新人スタッフの声:「SHIPの新人研修はどんな感じ?」

――次は「新人研修」について教えて下さい。どのような目的で進めていますか?

 

原田

新人研修は、SHIPの組織と支援の目的を理解することが主なねらいです。

入社後すぐの1ヶ月目、そして3ヶ月目、6ヶ月目と、まずは隔月のペースでおこないます。

今は、グループホームや生活介護の新規開設が続いていますので、同じ時期に入社したスタッフ3~6名に集まってもらい、小グループで和気あいあいと実施しています。

このような合同研修にしたことで、他の事業所の同期とも交流が可能になり、新人スタッフ同士でお悩みや困りごとを共有しやすくなりました。

研修講師は、採用担当の高橋さんが担当して法人概要や組織のルールを説明します。育成担当を任されているわたし(原田)と中村さんが利用者様の障害特性や目指していく支援の考え方をお伝えしています。

 

【育成担当インタビュー】「現場監督から福祉のプロへ:48歳からの挑戦」SHIP本部 中村さん

 

――福祉が未経験だったり、強度行動障害の人たちと関わった経験のない人たちは、この新人研修を受けてどのような感想を持っていますか?

 

原田

経験があってもなくても入社間もない新人であることは変わらないので、みなさん少し遠慮している様子が窺えます。

未経験の方だと、ひたすら話を聞いて、吸収していこうという姿勢を強く感じます。

一方、経験者の方は、過去の支援とのギャップを感じ、アセスメントや個別支援の重要性を再認識することが多いです。

 

そのほか、福祉の現場では直接お金をいただいて支援することはないので、サービスを提供しているという感覚が薄れてしまいます。

ですからあえてSHIPでは、スタッフの皆さんにもサービス報酬はいくらだから、それ相応のサービスを提供しなければならない、といった社会人として当たり前に持つべき認識を伝えています。

福祉経験が長い方は、そういった研修をよい意味で新鮮にとらえているようです。

 

 

保護や指導ではない、目指しているのは「支援」

――原田さんが担当されている研修の中で、おススメや評判のよかった内容を教えてもらえますか。

 

原田

新人研修の中からですと、1ヶ月目のはじめにおこなう『支援方針や支援観』について、みなさんと共有していく研修がおススメです。

具体的には、「保護や指導ではなく、支援なんだよ」という内容です。

SHIPで働くスタッフは、利用者様に対してお世話をしたり色々教えること以上に、個々の特性に合わせた「支援」を目指そうという話です。

私たちSHIPの大切にしていることが、ちゃんと伝わっていると感じられる部分です。

 

評判がよい研修は、グループワークを取り入れたディスカッションの時間です。

レクチャーを受けた内容についてグループであらためて話し合うことで、知識の定着が促されていきます。

研修の後にはレポートを書いていただくのですが、その中でも「グループワークが良かった!」との声がたくさん出ています。

 

たとえば、氷山モデルを活用し、座学とグループワークを組み合わせた実践的な研修をおこないます。

この場では、年齢やキャリアは関係なく、みんなで自由に意見を出し合ってもらうので、色々な角度からの発見があって支援の視野も広がっていきます。

 

氷山モデルとは?

障害者の人たちの課題となる行動を「氷山」に例えて検討するアセスメント方法です

表面に見えている行動は全体の一部であり、実は、見えていない水面下には特有の「考え方、感情、まわりの人や環境の影響」などが相互に作用しており、その行動が発生していると捉え直すための支援ツールです

 

 

「グループワーク」でチーム力を高めたい

――新人研修をはじめ、他にも研修機会を提供していると思いますが、変化の手応えはいかがでしょうか。

 

原田

ただ聞くだけの研修ではなく、双方向的なやり取りのある研修になってきたと思います。

その影響からか、スタッフ同士のコミュニケーションも活発になってきたように感じています。

 

やはり現場では日々の業務が最優先です。ですから必然的に最低限の部分しか話さなかったり、スタッフの入れ替わりもあるので、関係が希薄になりがちです。

だからこそ、あえてグループワークという違った場面を提供することで、いつもより少し深く話し合い、結果としてチームの繋がりも深まっていく変化がみえてきました。

 

少し話しは変わりますが、専門的な支援のスキルも大事なのですが、スタッフ同士のコミュニケーション面の成長については、支援と同等の必要性を感じています。

とくに、アサーションやバウンダリーの研修では、自分の大事にしていること、でも伝えにくいこと、逆に受け止めにくいこと、などを話すので、同僚の違った一面を知る機会になっていると思います。

このような内部研修がキッカケとなって、みんなで成長していこうという雰囲気が育ってきたことで、主体的に外部の研修にも参加する人が増えてきました。

そのほか、国家資格の取得を目指す人も増えてきて、みんなで成長していこうという組織風土の変化も感じています。

 

アサーション(アサーティブ・コミュニケーション)とは?

自分の気持ちや意見を、相手の気持ちも尊重しながら、誠実に、率直に、そして対等に表現するコミュニケーションスキルです

引用:アサーティブジャパンHPより

 

バウンダリー(こころの境界線)とは?

自分の心や感情を守る境界線のことで、他者との適切な距離感を保つためにも重要です。バウンダリーを意識しながら交流できるようになると、健全で円滑な人間関係を築くことに役立ちます

 

 

障害のある人の個性に「社会が合せていく」取り組み

――新人研修の場面で、「よくある質問」や「お悩みごと」についても教えてもらえますか。

 

原田

「支援のカタチは決まっていると思い込んでいた」と話してくれるスタッフさんがいました。

SHIPでは支援の基盤が整ってきたこともあって、アセスメントや支援方法の一つひとつに『型』ができてきました。

業務としてみると効率的・効果的な体制になってきたとも言えますが、支援で一番大切なことは、やはり個別支援です。

その『型』を一人ひとりの個性に合わせて、あえて違う『型』に変えていく発想も求められることになります。

 

たとえば、生活介護(障害者のデイサービス)で提供している自立課題は、同じサイズのカゴに入れて提供しています。

これは組織が決めた支援の普遍的な『型』なのだとなぜか思い込んでしまうようです。

新人研修では「べつにカゴに入れて提供しなくても大丈夫ですよ」とお伝えするのですが、「変えていいんですか!」とビックリされることもあります。

社会や組織の側に障害のある人を合わさせようとするのではなく、障害のある人に組織や社会が合せていく個別支援が大事だということを粘り強くお伝えしています。

次の研修で会ったとき、新人スタッフの方から「やってみたら、すごく変化がありました!」と手応えを感じている表情をみると、とても嬉しい気持ちになります。

 

自立課題とは?

ASD(自閉スペクトラム症)のある人が一人で取り組めるように構成された学習課題のこと。自立課題は、視覚的手がかりを活用し、課題の手順や目標が明確に示されているため、成功体験を得やすく、自己効力感や自立心も養うことができます。

 

 

「未経験でも大丈夫」そのための重要なポイントは?

――強度行動障害のある人に対する難しい支援に携わる場合、必要なスキルなどはあるのでしょうか。

 

原田

まったくの未経験でも全然大丈夫です!

特別なスキルよりも、まずは「個別の支援を」というところに尽きます。

排泄はこうだ、入浴はこうだ、栄養はこうだ、みたいな信念は誰にでもあって、私たちはそこに当てはめて考えようとしがちです。

でもその前に「個別」という考えがあって、それは思っている以上に大事な支援観です。

目の前の利用者様にとっての排泄はどうか、入浴はどうか、「個別支援」の方向に矢印を合わせて考えることができれば未経験でも大丈夫です!

 

 

「差別化」のポイントを要チェック!

――人材育成の面で、SHIPが同業他社と差別化できる部分はどういうところでしょうか。

 

原田

研修の機会は他社と比較してもかなり多いはずです。

それと、業務時間の中で研修を受けられることに驚いている声は、社内・社外を問わず、よく耳にします。

ある採用面接では「今の施設では何も教えてもらえず、責任だけ押し付けられてツラかった・・・」と、泣きながら訴えていた求職者もいました。

 

前述の通り、他の施設では断られてしまう強度行動障害の方々をSHIPでは受け入れています。

そういった方々の地域生活を実現するためにも、やはり支援スタッフのスキルアップは欠かせません。育成には力を入れていこうという気持ちは本当に強くあります。

サービスの質を高めていこうという想いは、他の育成担当スタッフとも日常的に話し合っており、それが他社との違いとして認識されはじめてきたと少しずつ感じられてきました。

 

ぜひ、社会福祉法人SHIPで、私たちと一緒に、強度行動障害のある人たちが地域で当たり前に暮らせる社会づくりを目指してもらえたら嬉しく思います。

 


 

原田さん、ありがとうございました。

時代の変化に適応する難しさと向き合いながらも、新たな道を探ってきた成果が少しずつ現れてきていることが分かりました。

 

――さいごに―――

社会福祉法人SHIPでの支援の仕事は、一方的なお世話ではなく、利用者様と向き合いながらスタッフも共に成長する仕事です。

その中で得られる「気づき」は、きっと人生の可能性を広げてくれるはずです。

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