【育成担当インタビュー】「入所施設」での支援に違和感を持ち転職

原田貢さん

SHIPの生活介護事業『笑プラス』のサービス管理責任者の原田貢さんにお話をうかがいました。

重度知的障害・自閉症のある人たちへの支援経験が長く、入所施設から社会福祉法人SHIPへ転職したスタッフです。

社会福祉士と介護福祉士の資格を持ち、転職後のSHIPではグループホーム放課後等デイサービス生活介護でキャリアを積んでいます。

イラストレーターとしての一面もあり、SHIPの広報活動にも大きく貢献している原田さんにインタビューしました。

 

 

【転職の動機は違和感】

--原田さんは入所施設からの転職者ですが『転職の動機』を教えてもらえますか?

 

原田:前の入所施設には知的障害や自閉症の重度の利用者様が多かったです。だんだん高齢化しているような状況の施設で『作業棟』の担当スタッフとして働いていました。

その入所施設に入社した頃(17~8年くらい前)は、作業は『利用者様の全員参加』が基本でした。活動に参加しないという選択肢はなかったのです。言い方はよくないのですが、当時は、拒否されても何とかごまかしながら、音楽、ドライブ、散歩など、何かしらの活動への参加を促していました。

ちょうど転職を考えていた時期は『障害者自立支援法』の理念が浸透してきていて、『本人主体』『自己決定』を大事にしようという機運が高まっていました。だから「作業に行きたくない」という利用者様には、部屋に残ってもOKといった具合に融通を利かせるにようになっていきました。

でも、『本人主体・自己決定』の方針だからといって、それをイコールで「参加したくないならしなくていい」と結論づけていることに対して「それってどうなんだろう…?」と、すごく違和感を感じていました。

 

--「なぜ参加したくないのか?」が考えられていない、ということですね。

 

原田:そうなんです。当時は、SHIPで提供しているTEACCHプログラムの『構造化支援』の視覚提示といったアプローチ方法を知りませんでした。だから、作業へ行きたがらない人は、何とかごまかしながら連れて行くしかありませんでした。

ただ、利用者様の立場になってみると、活動の場所にたどり着くまで何の情報も与えられていないんですよね。「どこに連れて行かれるんだろう…?」「なにか嫌なことが起こるかもしれない…?」「怒られたらどうしよう…」こんな気持ちだったのかもしれません。

でも、活動の場所に着くと「あっ、車がある。ドライブかな。それなら行くよ!」と、これからやることを理解して参加できたんだろうなぁ…、振り返ればそのように思います。だったらあのとき、車の『写真・絵カード』を使って、これから何が起こるのかを事前にお伝えすれば良かったなぁ…と。

障害特性に基づかない『本人主体・自己決定』が、利用者様の生活不活発病を誘発しているような状態でした。また、全般的に利用者様の年齢が上がってくると、高齢の人に支援レベルを合わせていくことになります。ADLの低下に伴う介護がメインの支援テーマになるので…。

 

 

--障害者施設が、実質高齢者の介護施設に変わっていったということですね。

 

原田:そうなんです。たとえば『散歩』の活動があります。

高齢者が増えてくると彼らのADLに合わせざるを得なくなります。そのため、若くて歩ける人たちへ回せる人手が足りなくなり、彼らの活動量が減り、終いには散歩に行かなくなる、といったような悪循環が起こっていました。

食事でもお風呂でも、高齢で要介護度の高い人に合わせて施設全体が動かざるを得なくなっていました。そこに強烈な『違和感』を覚えていましたね。「知的障害者や自閉症の支援って、そもそも違うんじゃないの?」と。介護が優先されて放置される利用者様がいる、みたいな部分が増えてきちゃったんです。

それと、施設ではよく分からない『自己決定』が尊重されて、支援者はあまり介入しなくなって、それが「利用者主体だ」みたいな理屈が広がりはじめて、もう違和感が止まらなくなってきて、それで本気で転職を考えだしました。

その頃、昔、一緒に働いていた知り合いに連絡をとってみたら、SHIPのラファミド八王子(グループホーム)で働いているとのことで、その話を聞いているうちに精神障害者の支援に興味を持って、採用面接を受けてみようと決めました。

 

 

 

【転職前後の葛藤】

--転職の際、奥さんやお子さんのことで躊躇しませんでしたか?

 

原田:結婚して、子どもが二人いて、転職の決断には悩みましたね…。

ラファミド八王子で若林さんに面接してもらって、キャリアUPに向けた『サラリースケール』を見せてもらいました。ボーナスだけで考えれば入所施設に比べて低かったです。ただ、入所施設の場合『夜勤手当』を含む総額で支給されていたので、それを抜いた年収ベースで考えると同じくらいでした。

また、若林さんからは「SHIPでは新規事業をたくさん展開していく方針だから、原田さんの頑張り次第では昇格・昇進のスピードも速くなる」というお話もありました。その部分に活路を見出そうという気持ちと、あとは賭けみたいなものでしたね。

あと、当時は『介護福祉士』の資格しかありませんでした。実は、社会福祉士の資格にも興味があって、SHIPには『資格取得補助制度』があったのも魅力のひとつでした。

その他、入所施設の夜勤業務について「あと何十年も続けられるかな…?」という漠然とした不安もありました。ちょうど30歳手前で、将来的に後悔するのも嫌だったので「転職するなら今しかないな!」と、考えていましたね。

 

 

【転職して感じた新鮮な感覚】

--転職してみて実際にはどうでしたか?

 

原田:重度の知的障害者から精神障害者への支援に対象がガラリと変わったので新鮮でしたね。『本人主体』『自己決定』が成立するというか。

 

ラファミド八王子の支援の方針は

・支援者が決めるのではなく、本人が決められるように支援しよう。

・支援者が課題を肩代わりするのはやめよう。本人が課題と向き合ってもらうように支援しよう。

・本人に社会で生きていることを実感してもらおう。そのためにも日々の意識づけをしていこう。

 

というもので、『自立』に向けて支援していくという考え方がとても新鮮でした。

前の入所施設では、支援対象者が重度や高齢の知的障害だったので、自立して支援が終了するというイメージを持てませんでした。でも、ラファミド八王子の場合だと「グループホームを出て自立したい」と希望する利用者様がとても多いため、私たちもそれに向けて、今、なにが必要なのか、本気で考えて支援をしていました。

「あぁ…、同じ福祉の世界でも、こんなふうに見通しを立てて、本人に力を積み上げてもらわないと、そこにたどり着けないって支援もあるよなぁ…」

「そうかぁ…、どうしても難しい部分は、他のサービスを使ってでも自立を応援できるように考えていかないといけないなぁ…」

そんなイメージで支援していくのが新鮮でした。

 

『自己決定』についても改めて考えさせられました。

前の入所施設では自己決定した後の『不利益』について本人に知らせていませんでした。「本人が行かないと言ったから行かなくていい」というのは、本人のためではなく、支援者にとって都合がいいからそうしていたんです。また当然ですが、利用者様の活動が減るといった結果の責任は支援者が負うことになり、問題の尻拭いも支援者がすることになります。なんとなく不毛な感覚の正体はこれだったと思います。

SHIPに転職したことで『自己決定』の本来のかたちを知ることができたと感じています。

 

 

【サービス管理責任者の仕事】

--原田さんは現在、『笑プラス』という生活介護の事業所で『サービス管理責任者』を務めておられますが、仕事の内容はどのようなものですか?

 

原田:自分が直接支援をやるというよりは、一歩引いたポジションで間接的に関わっている感じです。現場の支援スタッフへのOJTとして、失敗も含めた試行錯誤を応援するというか。

もちろん障害特性や構造化支援の指導もするのですが、現場の支援スタッフの皆さんに支援の成功を実感してもらいたいという気持ちで働いています。そういう部分は、今ちょうど「リーダーシップ研修」を受けている中で気づきがたくさんありますね。

イメージを伝えるのは難しいのですが、たとえば料理でいえば「カレーを作る」みたいなお題は決まっているけれど、シーフードカレーか、チキンカレーか、といった中身の部分は現場の支援スタッフの裁量で工夫してもらっています。それを一歩引いた目線で見守りながら、必要であれば指示やアドバイスをするようなポジションで仕事をしています。

 

 

スタッフ数は15~6人くらい。常勤・非常勤のスタッフがいて、主体的に動く人もいれば、慎重派の人もいて様々です。本当は一人ひとりとゆっくり話したいのですが、時間の確保がなかなか大変です。自分ひとりで手が届かないところは主任スタッフと協力しながら、目指す支援の実現に向けて頑張っています。

非常勤のパートスタッフの人たちも本当に頑張ってくれています。

ここ(笑プラス)の対象利用者様は、知的障害や自閉症の症状がかなり重度の人たちだと思います。入所施設でも障害支援区分5~6の人だけ集めるというのはあまりないケースなので、未知へのチャレンジという『やりがい』というか、『面白さ』というか、そういう会話をスタッフ同士でよく話しています。

 

SHIPでは最近、SMBCビジネスセミナーと契約して『ビジネススキル系の研修』が受けられるようになりました。その中の「リーダーシップ研修」を受けての気づきを少し紹介すると「まずはみんなの話を聴く」という原点の大切さですね。

とくに非常勤スタッフとの情報交換・情報共有の時間がとれていなかったんです。そこで、さっそくパートさんとの定期面談を実施してみました。

効果はさっそく表れてきました。スタッフの一人から「前から考えていた仕事が実現できて嬉しいです。今ここで働けるのが幸せです!」って言ってもらったんですよ!

「まぁ、なんて素敵なことでしょう」と思ったのが印象に残っています。

そういう意見を聞くと、そんなスタッフの気持ちを維持できるように『サービス管理責任者としてしっかりサポートしていかなきゃな』と強く思い、それが自分自身のモチベーションにもなっている気がします。そういえば、SHIPにはモチベーションの高いスタッフが常勤・非常勤を問わず多いと感じますね。

 

 

 

【仕事の大半はコミュニケーション】

--スタッフの育成はどのように進めていますか?

 

原田:やはり、話すことが一番だと思います。ラファミド八王子での利用者様への支援と似ています。スタッフからの「困りました…どうしたらいいでしょう…?」が来るのを待っています。

困り感を感じ、課題解決への意識が高まった瞬間こそ成長のチャンスです。そのタイミングで「こうした方が良いんじゃない」というアドバイスをすると受け容れてもらえます。

 

--仕事での『大変なこと』と『やりがい』を教えてください。

 

原田:大変なことはやっぱり情報の共有、支援の方向性の共有みたいなところですね。人によって受け取り方は違ってしまうので難しいですね。情報の共有先として、保護者の方、スタッフは常勤・非常勤、生活の場のグループホームなど、たくさんの関係者たちと同じ方向性のもとで支援をしていくことは本当に大変です。

 

--どういう形で共有していますか?

 

原田:話し合うしかないだろうと思いますね。でも、そもそも共有するための『時間が取れない』という課題もあります。

日々の支援や業務についても、すぐに本音は出せないじゃないですか。話し合いの中で「どう考えていますか?」と質問するから、「実はこう思っていた」という本音が出てきます。そこから本格的に議論がスタートみたいな。

「なるほど。でも、そこで承認してしまうと、人がいないと動かなくならないだろうか…?」などと、スタッフのみんなに支援観はあるので、一度、考えを出し合うことは大切にしています。

 

 

 

--普段、感じている言いたいことはそれぞれあって、それは原田さんの『質問』で引き出すのですね。

 

原田:そうですね。重度の知的障害者や自閉症のある人の支援では、構造化支援の『スケジュール』の調整や『視覚提示』のタイミングなど、細かな支援の変更がかなり多く発生します。常勤スタッフ同士では情報共有されていることでも、非常勤スタッフには共有されていなかった…というケースは発生します。

また、変更された内容は、ただ伝えるだけじゃダメなんですよね。『なんのために変えたのか』という目的が共有されないと支援の方向性が定まっていかないので、そういった部分の引き継ぎにはとても気をつけています。

逆に、そういう軸の部分が一致して、みんなの支援がかみ合って、「この支援の方法なら、理解して自分一人でできたよね!」という成功体験があると、めちゃくちゃ『良かったなぁ~』と思えてやりがいを感じますね!

 

自閉症の人たちのコミュニケーション障害って、実は支援者側が引き起こしていると思うんです。ある場面でAさんはこうした。でもBさんはこうした。みたいになっちゃうと、支援者側の期待の曖昧さが原因で、利用者側の問題行動が誘発されてしまう…みたいな現象がおこってしまいます。

広い意味でコミュニケーションの難しさは、利用者様だけでなくスタッフも含めての課題であって、その中で『伝わった』『良かった』と感じられる瞬間は、とてもやりがいにつながります。

だから、自分の仕事はずっと『コミュニケーションのこと』をやっている印象ですね。スタッフにも、利用者様にも、『どう伝えれば理解してもらえるか』をいつも考えています。

 

 

 

【SHIPでのキャリアアップ】

--転職後のSHIPでのキャリアアップはどのようなものでしたか?

 

原田:SHIPに転職した後、キャリアアップはしています。役職も上がりました。実は、前の入所施設でも副主任みたいな役職にはついていたので、いくらか手当はもらっていました。転職でそれもなくなるので、これを機に資格を取って資格手当をねらおうと思いました。

『社会福祉士』の資格はSHIPに来てから取りました。法人の資格取得へのサポートは大きかったです。費用的な補助や実習時の休暇など、色々と都合をつけてもらいました。

SHIPでのキャリアアップは、ラファミド八王子で1年勤務した後、2年目からは放課後等デイサービスに異動となりました。4年目には新規開設した生活介護に異動し、主任 ⇒ 児童発達支援管理責任者 ⇒ サービス管理責任者、といった具合に昇格・昇進し、現在に至ります。

 

SHIPはスキルアップについてもサポート体制が充実しているのは魅力だと思います。

前の入所施設だと、せっかく研修を予約していても人員不足で流れてしまうことが多々ありました。SHIPに入ってからは余程のことがない限り、ほぼ計画通り研修の時間を確保してくれたのはありがたかったです。

またSHIPは、一つの法人の中で色々勉強できることが利点だと思います。私自身、3ヶ所の異動を経験する中で「障害と言っても広いなぁ」と感じました。児童期から成人期まで、軽度から重度まで、精神障害・知的障害・発達障害と、様々な支援対象のある中で、自分が明確に希望を出せば、希望した事業所で勉強できる法人だと思います。

じっくり一つを極めたいと思えばそれもできるし、自分の場合は色々な支援対象者を見ることができて、勉強になったし面白かったなぁという印象です。毎年、異動の希望は聞かれます。すぐに叶うかは別として、ある程度は尊重してもらえる風土だと思います。

 

 

【一緒に働きたいのはどんな人?】

--求める人材はどんな人か? どんな人にきてほしいですか?

 

原田:普通の人ですね(笑)。普通に『やる気のある人』に来てほしいです。ただ、最近悩むこともあります。自分が入社した当時とは社風も少し変わってきたかなぁ…と思うので。

当時は生活困窮者の支援がメインのNPO法人で「私たちはまず助けます」という理念にはインパクトがありましたね。社会福祉法人SHIPになってからは「みんなで力を出し合い、みんなで幸せになる」という理念に変わりました。

当時のなりふり構わずリスク関係なく『助けます』っていう姿勢に惹かれていて、それが面白かったです。今では、法人全体の専門性が高まってきて、アセスメント力も向上し、リスクも分析されているので、良かれ悪かれ社風は変わってきていると感じます。

 

ただ、個人的には、やる気がある人、勉強したい人、現状に満足していない人が好きですね。やっぱりそういうチャレンジ精神のある人は、なんだかんだでSHIPに向いていると思いますね。

今回、新しく開設した生活介護とグループホームは、地域で重度の知的障害者をみていくという未知のチャレンジでした。開設のうわさが広がり、利用したい(させたい)という希望がめちゃくちゃ多くあってビックリしました。支援することの難しいケースも多かったです。契約に至らなかったケースもありました。

重度の知的障害や自閉症のある人、行動障害のある人を地域で支援していくには、ある種の『覚悟』が必要になると思います。たとえば、保護者の方は、本人からさんざん殴られていて、家ではもう限界をむかえるほど疲弊してしまっているます…。「何とか契約をお願いしたい」というときに「任せてください」と言えるような、こちらの『覚悟』の部分が今はまだ足りないかなぁ…と感じます。

 

新しい事業が拡大されて、スタッフの人数が増えていく中で、全員が困難なケースに対応できるかというと、そうではないというのが現状ですね。だから今は、どの程度の支援対象者と契約していくのか、昔のように「まず助けます」とは言い切れず、事業所の支援力の都合で対象者を選ばざるを得ないところはあるかなぁと思いますね。

 

 

--福祉にはマイナスのイメージを持っている人もまだまだ多いと思いますが…

 

原田:逆に、きれいなイメージばかりで応募する人も多いのかなぁ…って思います。実際には泥仕合みたいなところも否めないので、福祉を仕事とする以上、きれいごとだけで終わらせず、結果が出なくてもあきらめない人と一緒に働きたいですね。

あきらめない人、自分の意見をちゃんと言える人、冒頭にお伝えした普通の人ってそんなイメージですね。何となくだと続かない仕事だと思います。人の人生に携わる中で、その人の人生が良い方向に向かうように、意見があれば伝え合える、話し合える、そんなやる気のある人と一緒に働きたいですね。

 


 

原田さん 率直な想いを答えてもらってありがとうございました。

社会福祉法人SHIPの等身大の雰囲気がイメージできたと思います。

まだ未成熟の組織ですが、みんなで力を出し合って成長していきたいですね!