【育成担当インタビュー】『お世話をするおばちゃん』からの転身

中村ひとみさん

人材育成担当の中村ひとみさんにお話をうかがいました。

福祉のベテランかと思いきや、実は建築業のベテラン。

福祉の仕事は40代からという遅咲きの経歴の持ち主です。

女性では初の本部事務局スタッフ。

現場たたき上げの人間力でスタッフの育成に貢献しています。

では、中村さんにインタビューしてみたいと思います。

 

【建築業の現場監督から “福祉業界” へチャレンジ】

――入社のきっかけを教えてください。^

 

中村前の職場(知的障害者向けの入所施設)で一緒に働いていた若林さんに誘われたのがきっかけです。

SHIPが実践している“社会に開かれた支援”に惹かれて転職を決めました。

福祉の仕事に就いたのは前の施設が初めてで、48歳からの遅めのデビューでした。

以前はまったく違う建築業で現場監督の仕事をしていて、いろいろあって転職を考えました。

その年齢での転職となると当時は福祉くらいしか選択肢がなくて、正直なところ消去法で入所施設の見学をしてこの業界に入りました。

 

 

中村:前の入所施設での福祉の仕事は閉塞的で、社会から隔絶されたような違和感がありました。

建築業から最後の転職のつもりでしたが「ここからはやく抜け出さないと」と、漠然と考えていました。

そんな頃、すでにSHIPへの転職を決めていた若林さんに声をかけてもらって、ラファミド八王子へときどきお手伝いに行くようになりました。

入所施設とは考え方がまったく違っていてとても新鮮な経験でした。

そんなご縁もあって、SHIPの重度障害者向け新規事業所(生活介護笑放課後等デイサービス子笑)の立ち上げに合わせて、2014年に正式に入社しました。

 

 

 

 

【『勉強して成長しよう』と思えるのが “SIHP” の魅力】

――SHIPに入社してみて、実際にはいかがでしたでしょうか?

 

中村前の入所施設とは違う部分がかなり多かったです。

初めて知ることが本当に多くて、とても大変でした。

ただ、いろんな興味・関心が広がり「もっと勉強したい!」とも思っていました。

前職では直接支援のみが私の仕事で、それ以外は事務方の仕事、と仕分けられていました。

ラファミド八王子では、役所をはじめ関係機関とのやり取りも『支援の一環』として世話人が当たり前におこなっています。

むしろ利用者様が自らおこなって『できる部分』を増やしています。

関係機関との調整や交渉の業務を初めて経験したときは、専門用語や知識が追いつかずかなり苦労しました。

支援区分、事業種別、社会保障制度など、仕事の違いに戸惑いつつ、知らないことがたくさんあることに気づいて、「もっと勉強しなければ…」と痛感していました。

 

 

中村前職では重度知的障害者の支援がメインで、精神障害者の支援がメインのラファミド八王子との違いが『衝撃的』でした。

精神障害とはただの総称。実際にはかなり種類が幅広く、それに応じて支援内容も個別にぜんぜん違うものでした。

そのうえで『できる部分を増やす』こと、『障害の部分は社会資源を活用する』こと。それが『自立支援』の考え方でした。

もしSHIPに来なければ、ただの『お世話をするおばちゃん』で終わっていたと思います。

前職での『身の回りのお世話係り』という自分にまったく疑問を感じていなかったので。

現在のSHIPでおこなっている『TEACCHモデル』を採用した「構造化支援」の部分は本当に未知の領域でした。

 

 

中村資格の面では、建築業からの転職の際にヘルパー2級を取得しました。

その後、介護福祉士の資格は取りましたが、それ以外に福祉の勉強をしたことはありませんでした。

でも、SHIPで働くようになってから「社会福祉士の資格を取ろう」と、さらに勉強へのモチベーションが高まりました。

私は高校中退だったので、資格を取るためには高校(通信制)に再度入学しなければなりませんでした。

そして、大学にも入学して卒業する、という課題をクリアしなければならなかった苦労人でもあります。

SHIPではみんなが資格取得にチャレンジしていますし、みんなが勉強熱心で、本当にたくさんの刺激をもらえます。

負けず嫌いな性格もあり、お陰様で資格取得後も勉強することが尽きない日々です。

 

 

 

 

【目的とゴールをイメージして働く『論理的思考』が身についた】

――SHIPに入社して『身についたこと』を教えてもらえますか?

 

中村常に『目的』を考えることと『論理的思考』が身についてきました。

前の施設は、理念・目的・人事考課など、求められている期待が  ぼや~ん としていました。

実は、この業界では似たような話をよく耳にします。

福祉業界は「人のお世話をしているんだからお金は国がなんとかするべき」と、行政依存の考えに陥りがちです。

SHIPはそれにくらべて理念や目的がはっきりしていて、ある意味、ベンチャー企業という印象です。

ぼんやりした福祉でなく、目的や目標の達成に向けて、常に新しい事業をやろうとしています。

 

 

中村ラファミド八王子では『できる部分を増やして、障害の部分は社会資源で補完して、自立を支援する』と明確に支援方針が決まっています。

それを踏まえて、ゴールを見据えて、ハードルを下げながらも、達成のためにはどうするか、という思考が求められます。

そうこうしているうちに、ゴールから逆算して考える『論理的思考』で支援をおこなうようになっていました。

でも、肝心な利用者様に動機がなければ「できる部分を増やそう」とは思ってもらえないものです。

そこが難しいチャレンジなんですけど、支援の発想はこのような『考え抜く』という姿勢から発展していくのだと思っています。

 

 

 

 

【育成のやりがいは『成長の循環』を感じられた瞬間】

――現在の仕事内容を教えてください。

 

中村人材育成を担当する総合支援部では、主に、サービス管理責任者(以下、サビ管)へのアドバイスや、スタッフへの内部研修をおこなっています。

新規開設の事業所では、パートさんたちと現場で一緒に働くことも多く、とくに未経験のパートさんたちに直接伝えていくこともあります。

本来であれば、サビ管が一般職やパートさんたちを指導する流れですが、現状ではサビ管も忙しく「支援の傍らで育成までしている時間が取れない」という問題に直面しています。

たしかに重度部門の支援は、ラファミド八王子のような中軽度部門とくらべて、利用者様の支援に必要な量も、育成するスタッフの人数も、両方とも多く、一日の時間が本当に足りなくて大変なんです。

だからといって、サビ管の代わりに私が直接やりすぎるのも違う話です。サビ管の成長の機会を奪ってしまうことになるので。

あまり表立ってやり過ぎないように気をつけたり、必要があれば直接教えたり、かなり気を遣いながら育成に携わっています。

私の本部事務局での役割は、このような現場の現状を把握して、本部へ問題として報告し、会議で取り上げ協議して、最適な人員体制についてあらためて考え直していく。というようなことも求められています。

 

 

中村SHIPでは今後、重度部門の事業を開設計画のメインとして考えていますが、なかなかうまくは進んでいません。

たとえば、中軽度部門から異動してくれるスタッフも多いのですが、支援対象者や支援方法の違いに戸惑いも多く、手探りな部分もありながらの関りとなり、利用者様も支援者も育成者も、みんなに負担が大きかったと思います。

また、重度のグループホームでは、非常勤で短時間勤務のスタッフの多いなか、時間を調整してなんとか研修をしたとても、スキルが育つ前に退職してしまう… という悪循環もありました。

支援の知識やスキルについては、研修の時間さえ確保できれば、アメリカでTEACCHを学んできた若林さんと一緒に、十分にサポートできると思っています。

人員配置体制を見直しながら、少しずつ中軽度部門との違いを理解してくれるスタッフも増えてきて、重度部門の育成や支援の環境づくりはこれからだぞ!と感じはじめているところです。

 

 

 

――仕事のやりがいと、逆に大変なことも教えてください。

 

中村:スタッフが成長していく姿にやりがいを感じます。

重度の利用者様でも支援によって『できる部分』が増えていくことをみんなで体感できると、もう最高です!

だから支援の組み立ては、スタッフのみんなと一緒に考えるようにしています。

自閉症の利用者様の中には、感覚刺激の好みにかなり強さが出たりもします。

たとえば、洗濯バサミを手首につけたり、洗濯バサミをつまんで広げたり、そういった感覚をとても好む利用者様がいらっしゃいます。

この特性を強みととらえて共有することで「洗濯バサミを使ってカードを吊るすような課題はどうだろう」と、みんなのアイデアから『自立課題』が誕生していきます。

一見、無意味な課題に思えるかもしれませんが、生活場面での『洗濯物を干すことができる!』という自立へとつながっていく流れです。

みんなで工夫した支援の繰り返しによって、利用者様のできる部分が増えて、落ち着いて生活している様子がみられると「これで間違ってなかったんだ」と実感できます。

こういった成功体験をスタッフみんなと一緒に感じられること、そうできる環境にしていくことにやりがいを感じています。

 

 

中村大変なことは『待つ』という支援を理解してもらうことです。

支援者として大切な姿勢は『先回りしない』ということです。

先回りして手を出すと、利用者様のできる部分を発見できません。

わたしは、よくスタッフの人たちにこんなことを伝えています。

「外では困っている人を助けてOK。でも、ここでは見守ってください。できそうな部分を探してください!」と。

するとスタッフのみんなから「えっ!こんなこともできるんだ!」と驚きの声があがってきます。

お節介と支援の違いに気づきます。

 

平行して『焦らない』ことも大切です。

「一年に一個、できる部分が増えていけばOK。20年で20個できる部分が増えたらすごいことでしょ!」と、声をかけたりもします。

育成には時間はかかりますが、自分も同じように育てられてきたので、今度はそれを還元して、スタッフのみんなにもできるようになってもらいたいです。

そのような成長の循環を感じられると、すごく嬉しい気持ちになりますね。

こういった福祉の仕事の楽しさ・面白さを伝えていくことは、もっともっとしていきたいと思っています。

 

 

 

【重度の知的障害者でも “地域で当たり前に暮らす” を目指して】

――今後の目標と課題を教えてください。

 

中村:重度部門のグループホームの支援を軌道に乗せ、重度の知的障害者でも地域で当たり前に暮らせる事業モデルをつくることが目標です。

そのためには、繰り返しになりますが、スタッフの適正な人員配置の練り直しにくわえて、スタッフのみんなにも知識とスキルを身につけてもらうことが課題です。

障害や疾病の深い理解をみんなに広げていかないと、目指す支援は実現できないと思っています。

人材が育つことで、利用者様のできる部分が増えて、落ち着いて過ごせるような支援を、みんなで提供できるようになりたいです。

 

 

中村目標の実現に向けて、私がおこなっている研修を少し紹介すると、PowerPoint資料を使って障害特性の理解を促す研修をしたり、その知識を踏まえて一緒に事例を検討したり、そういったことをくり返しています。

また、中途入社のスタッフには、構造化された環境の意味合いについて「なぜ、これが必要なのか?」を、何度も問いかけて考えてもらったりもしています。

重度の知的障害があっても、その人たちが暮らしやすい環境の調整と、その人たちをよく理解している支援者がいれば、地域で当たり前に暮らすことができると思います。

地道で長い道のりですが、「困難な状況でも諦めずに工夫することで必ず乗り越えられる」とスタッフみんなが感じ取れて、チームとしてつながっていくことを目指していきたいです。

それが、私がSHIPにいる間での目標となります(あと10年位)。

 

 

 

【女性も活躍できる組織にしていきたい】

――職場の働きやすさ、または改善して欲しい部分を教えてください。

 

中村:全体的に働きやすい職場ではあると思います。

ただ、事業所間の交流は、もっとあればいいなぁと思います。

SHIPは事業所の数が多く、対象となる障害種別も事業内容も幅広いので、交流や共有に難しさがあります。

せっかく同じ法人なのに、ある事業所ではできていることでも、他の事業所ではできていない、という事態もよく起こります。

法人の規模が大きくなる過程で、本部事務局の機能も模索しながら変化している最中です。

そんな中、わたしは女性初の本部スタッフになったので、女性として感じてきた組織での難しさについて解消していきたいと考えています。

そして、もっと女性スタッフのキャリアアップを進めていきたいと考えています。

 

 

――話は変わりますが、理念についての考えも聞かせてもらえますか?

 

中村:私はSHIPの理念がすごく大好きです。

これがあるからSHIPで働き続けられると思っています。

最初は「重度部門にはあてはまらないのでは…?」と思っていた時期もありました。

しかし、TEACCHを勉強して「自立は人や環境の力を借りてもいい。その人なりのできることで自立していけばいいのだ」と納得することができました。

繰り返しになりますが、SHIPの理念があるから今も働き続けていられると思います。

支援に迷ったときはいつも理念に戻っています。

とてもありがたい存在です。

 

 

 

――最後に2つ質問させてください。

――「こんな人と一緒に働きたい」という希望はありますか?

 

中村:ネガティブでもいいけれど、リフレーミングしてポジティブに変換できる人と一緒に働きたいですね。

正直、欠点をすべて補うのは無理です。

でも、自分と向き合い、気づきを得て、プラスに考えて改善し、前に進んでいける人と一緒に成長しながら働けるのが最高です!

当てはまる人には、ぜひ、求人に応募していただきたいですね。

 

 

――福祉で長く働くために必要なことは何だと思いますか?

 

中村:ずばり『忍耐』は必要ですね。

私は、職場では『自分を出す必要はない。役割を演じればいい』と思っています。

福祉の仕事は人と関わる “コミュニケーション” が仕事のメインです。

普段は無口な人でも、職場ではコミュニケーションが必要なんだから『求められる役割を演じられればいい』と思っています。

そうやって忍耐のハードルを下げていく。

それが私からアドバイスになります。

 

 

 

中村さん、たくさんのお話をありがとうございました。

今後も中村さんのバイタリティーで、重度の知的障害や自閉症支援の楽しさ・喜びを広めていってほしいと思います。

10年後のSHIPが中村さんの目指す組織になっていることを期待しています!