【職員インタビュー】「まず体感してもらいたい」重度の知的障害・自閉症支援の面白さと課題『友セカンド』妹尾さん      

重度の知的・発達障害者が対象のグループホーム友セカンド妹尾さんにお話を伺いました。

SHIPの前身である特定非営利活動法人エスエスエスに入社。困窮者支援の事業から障害者支援の事業に異動し、2019年に開設した友セカンドのサービス管理責任者に着任しました。国家資格は精神保健福祉士の資格をお持ちです。

友セカンドの職員体制は現在、正社員、アルバイトをふくめて約50名の大所帯です。子育てがひと段落した世代など、年配の方が多いのも特徴です。

重度知的障害者支援のやりがいや課題、初めてこの支援に関わる職員のとまどいや、そのサポートについて具体的にお話しをうかがいました。

 


【社会人向いてないな、から何となく入った福祉の世界】

 

――入社のきっかけを教えてください。

 

妹尾:最初は福祉への志とかは特になく、エスエスエスに入社しました。

前職は人材派遣の仕事でしたが、社会人の上下関係、ルールになじめず、すぐに辞めました。それで社会人に向いてないな、と思ってロックバンドをやっていました。

人間関係の構築が下手で、当時はこんな風に話せなかったように感じます。

もっと人見知りで、人と話すのが苦手だったし、自分では普通にしていても、まわりからは変なやつ、社会不適合者と言われることもありました。

 

福祉の仕事は「やってみたらおもしろかった」のと、当時自分は20代、まわりの職員のほとんどが30~40代の近い世代で「やりやすさを感じた」から仕事が続けられたと思います。

困窮者支援の仕事でグループホームサクレ江戸川に出入りする機会が多く、興味を持ち、高橋誠司さん(現在のSHIPの採用担当者)に「来る?」と言われ「行きます」という感じで障害者支援(今のSHIP)に移りました。

エスエスエスの宿泊所や、サクレ江戸川で精神障害者と関わり、興味を持ったことと、就職した友人が精神を患いうつになったこともあり、精神障害の支援をしたいと思い、SHIPの資格サポート制度を利用して精神保健福祉士を取得しました。

入社してからは、年々自分がまともになっていっていると思って、変化が楽しいです。

 

 

【重度障害者支援のおもしろさと「現在建設中」が職場の魅力】

――友セカンドの仕事内容を教えてください。

 

妹尾:グループホームは生活の場なので生活の支援メインですね。

利用者様は、自閉症や重度の知的障害と診断されている方がほとんどです。

われわれと同じく、毎日、起床、朝食、ある人は服薬、歯みがき、着がえ…と一日の流れがある中で、障害特性を理解し、 事業所の理念に則り、できる部分できない部分を見極めて、できることはご自分でできるように、できない部分は構造化などで支援していきます。

日中は、現在は全員SHIPの生活介護笑プラスに通っています。情報共有し、連携して支援を行っています。

 

 

――仕事のやりがいを教えてください。

 

妹尾:課題が解決したときの「達成感」と、利用者様と接して感じる「おもしろさ」がやりがいです。

利用者様の課題解決に向けてみんなで考えて、トライ&エラーをくり返しています。うまくいったときの「やったぜ!」という達成感は正職員・アルバイトふくめて共有できる部分だと思います。

それと個人的には、単純に、利用者様を見ていて興味深いですね。自分にはない発想を持っていらっしゃるし、 突拍子もない行動をされることもあります。日々、いろんな発見がありますね。

 

もっと個人的な話をするなら、やりがいではないですが「重度知的障害」と呼ばれるものへの偏見がなくなったのが、自分自身にとっては一番良かったことです。

重度知的障害や自閉症とされる人たちと実際に接することで、中高生のころに勝手に抱いていた偏見に気づかされ、とっぱらわれました。気づくことができて、とてもありがたい気持ちです。

SHIPではじめて「重度知的障害」と深く関わって、僕が彼らに感じたことをざっくばらんに言うと「あ。なんだ。いいやつらじゃん!」です。

すごく平たい表現ですが、あえてそのまま全人類に伝えます。いいやつらです。みんな自分と同じひとりの人間で、それぞれに魅力があります。

OK!お互い楽しく生きようぜ!って、思います(つらいこといっぱいあるけど…)。

 

 

――職場の魅力を教えてください。

 

妹尾:これを魅力と思えるかは人それぞれですけど、SHIPも友セカンドも、いまだ「建設中」ということです。

開設してから、利用者様の食事や入浴、消灯時間を決めるなど、すごく小さいところから取り組んで、2年間で生活支援のルーティン化が進められました。

まさに今みんなの手で作り上げていっているとすごく感じます。

僕はそれを楽しめる人間だったから魅力に感じてきたと思います。できあがっている職場を求める人には合わないかもしれませんが。

まだまだ考えなきゃいけないこと、できていないこともいっぱいあり、ひとつひとつ解決していくのがおもしろいと感じます。

SHIPの法人理念「挑戦」という項目があります。

仮に、手直ししづらい部分でも、必要にかられたら僕はやるべきだと思うし、一度できあがったものを壊す作業も時には必要だと思います。壊させてくれるのはSHIPの魅力ですね。

 

 

 

――職員の働きやすさはどうでしょうか。

 

妹尾:意見は言いやすいのではないかと思っています。 言いやすい環境を作ろうとしています。

直接や、他のだれかを通してでも、意見は結構聞こえています。

いいものはもちろん業務の中に取り入れるし、職員の個人的な問題でも、解決できることはできるだけ解決したいなと僕は思います。

 

 

【三つの課題「医療連携」「避難場所」「人間関係」】

――現在の課題はなんでしょうか。

 

妹尾:三つパッと出てきたのが「医療連携」「避難場所」「人間関係」です。

一つめは地域との「医療連携」 です。支援面はみんなで頑張ればいいですが、いざ病気になったとき、我々は医者ではないので地域医療の力を頼らざるを得ないです。

現状では、太いパイプがつながっている病院はまだないので、開拓しないといけないです。

重度の障害者の場合、病院によってはまだまだ受け入れてもらえていないと感じることも正直あります。

地域移行と言われていますが、まだまだ自閉症、知的障害の人を認知して、存在を受け入れるというのはできていないのが現状ではないかと感じています。

 

 

妹尾:二つめは災害時の「避難場所」です。今は最寄りの小学校ですが、現実的ではないです。

なぜむずかしいのかは「障害特性」とそれにともなう「強度行動障害」が関わっています。

普段からたとえば「コミュニケーションが苦手」「衝動的に行動する」「変化が苦手」などの特性があり、本人に悪気はなくても他者とのトラブルや、自傷他害、パニックなどにが起こることがあります。

友セカンドに入居してから、行動障害が以前より落ち着いた利用者様は多いですが、それは周囲が特性を理解し、本人に合わせた環境づくりと支援を行っているからです。

地域の避難場所では、普段とちがう上に、他に避難している人たちも平常ではないでしょうし、よりいっそう落ち着ける環境ではないでしょう。

たとえば、子供が手に持っているお菓子を衝動的に取って食べてしまう、騒いでいる子供がいてうるさいと不快に感じたら、たたいたり蹴ったりしてしまう(他害行為といわれる行動障害の一つ)、いつもとちがう状況にパニックになって奇声をあげてしまう、といったことが考えられます。

地域住民とみんなで一カ所にまとまって落ち着いて過ごすのは難しいのが現実だと思います。

 

話は戻って、対策として、まず市役所に「他に避難場所をご存じないですか?」と問い合わせしました。

立川のすみれ会という法人が立川市と提携していて、障害者の避難場所として災害時には開放するという情報をいただきました。

でも、すみれ会の施設は同じ立川市内でも徒歩だと30~40分かかるので、災害時に利用者様を連れて避難するには難しいと思いました。

あとは直接小学校に問い合わせになりますが、もし利用者様が避難する場合、一室を貸してもらえる可能性は十分ありそうです。現状では、一番現実的な案ですね。

 

 

 

妹尾:三つめは職員の「人間関係」です。

どこの職場でもあると思いますが、50人いると、完璧にひとつにまとまるのはまず無理ですよね。表向きはできたとしても、内側の部分までは無理だと思います。もし可能だったら、戦争は起きないですよね。

だから相互理解が人類の命題なんじゃないかな?と思います。

障害も健常も自閉も定型も自国も外国も、人類の課題は相互理解の追求だと思いました。

 

友セカンドの中でも個々の仲が良い悪いはどうしてもありますし、もちろん僕に対しても良く思っている人もいれば、悪く思っている人もいるでしょう。

どうしてもいさかいが起き、心にケガをする人が出てしまうこともあります。

その中であきらめず、何のためにわれわれは集っているのか、目的の共有を第一に、利用者様も職員も含めた相互理解に取り組んでいきたいです。

 

 

【新入職員には、まず利用者様を実際に見て体感して学んでほしい】

――最近の新入職員はどんな人ですか?

 

妹尾:最近だと2人います。

20代男性、前職は知的障害の生活介護で、通所系の職場からグループホームに転職しました。

真面目にひたむきに迷っている人ですね(笑)。

50代女性、前職は高齢者介護で、意欲的、勉強家でどこか抜けている人です(笑)。

障害者支援の仕事は初めてですが、興味関心はすごく持ってくれていてうれしい限りですね。若者に負けない成長意欲がすごくあります。

 

 

――新入職員がとまどうこと、困ることは何でしょうか。

 

妹尾:やっぱり最初の対応ですね。声をかけるのか、ジェスチャーでいくのか、笑顔を見せるのか…慎重な人は特に、相手を前にして動けなくなると思いますね。

でも、そこで無理に動かないのは、実は正解だと思います。

そして、なぜそれが正解かは、実際に何度も関わっていく中で、理解していけることだと思います。

 

 

――新入職員へサポートはどうしていますか。

 

妹尾:最初は知識の前に「体感してもらう」のが大事だと思っています。

利用者様の名前と何に気をつけらたいいかだけ教えられても、いざ対面したときそのとおりの対応はできないです。実際にその方と接してからでないと頭に入らないと僕は思いますね。

もちろん慣れている職員が一緒につきますし、もし利用者様が新人の慣れない対応に不穏になったら、僕もフォローします。

実際に利用者様に触れてどんな人なのかをその目で見てもらい、その中で困ったことや疑問を一個ずつ解決していくのがいいかなと思います。

 

 

――具体的に新入職員から困ったと相談されたことはありますか。

 

妹尾:一番最近だと、不穏になった利用者様の対応ですね。

不穏になったときはまず「利用者様の気持ちを切り替えること」と、「そのための手段をどうするか」がポイントです。言葉で伝えようとするより、場所を変えたり、視覚的にほかに意識向くものがわかりやすいです。

ある時、「家に帰りたい」と不穏になった方がいました。

本人はリュックをしょってもう帰れる状態でした。でも突然帰らせるわけにはいかないので職員はドアを開けられません。すぐに帰りたい利用者様は職員に手を上げようとしていました。

それで、居室にあるタンスなど引き出しの中のものを出しました。そうすると意識がそっちに向きます。

リュックの中身もあけて、 視覚的に「とても帰れる状態ではない」「片づけなければ」という認識になってもらいました。そして一緒に片づけをして、無事に切り替えられました。

もっとよいやり方もあったのかもしれませんが、職員が叩かれて、髪を引きちぎられそうになっていて、とても悠長なことをやっていられる状況ではなかったので。

 

その後、同じ利用者様の他害があったときに、新入職員は僕がやったのと同じことをしたらしいんですね。でも同じようには切り替わらなかったという相談がありました。

この場合、切り替わらないのは多分状況が違うからです。不穏になった理由が前回は「帰りたい」だったからリュックの中身が出て「帰れなくなった」ために切り替わりましたが、理由が違ったらまた切り替えの方法も変えなければいけないと答えました。

じゃあどうしたらいいか。というところはまた考えてやってみるしかないですね。

 

 

【中軽度の支援技術は重度では使えないので、学び直しが必要】

――中軽度の障害者支援と重度の障碍者支援の違いはなんでしょうか。

 

妹尾:一番は、言語でのコミュニケーションが成立するか、しないかですね。中軽度の支援をしてきた職員が友セカンドに異動したら、しゃべれないんだ、ほんとうに会話できないんだ、と思いとまどうことはあるでしょうね。

そして、今まで学んできたことが役に立たないというか、出番がない状況に陥ります。

CBT(認知行動療法)や、SST(社会生活技能訓練)MI(動機づけ面接法)などの支援方法や面談技術は通用しないので、別の知識と方法を学ばないといけません。

でもこれは重度から中軽度に移った場合も同じで、学び直しという大変さはあると思います。

 

 

 

――学びなおしをできる場や時間は取れていますか。

 

妹尾:全体への研修を実施しています。

できるようになったのは最近で、まだまだ足りていないです。これも建設途中の案件ですね。

グループホームの勤務はシフト制なので、正職員とアルバイト全員に学びを行き渡らせるには研修日を何日も設定しないといけないので、一度の研修を実施するにも結構な労力がかかります。

個別研修ならまだしも全体研修になると、一同に会する機会が取りづらい環境要因と、研修を執り行う側のモチベーションが合致しないと難しいです。

それでも「よしやろう!!」と意を決して、正職員のみんなと協力して、日程を決めて研修をおこなっています。

 

 

――どんな研修を行いましたか。

 

妹尾:一回目は「虐待防止研修」です。法人全体で必須の内容で、職員全員が対象で大変でしたが、無事にやり終えました。

それでもっとやれるという気持ちになり、次にやったのが「強度行動障害研修」です。

友セカンドの利用者様を題材に行いました。内部の研修だからできる利用者様の行動の動画撮影による研修です。

実際に不穏になっているご様子や、他害してしまったご様子を動画におさめて、事前や事後にどんな対応をとればよいのかをみんなで確認しました。

加えて強度行動障害はどういうものか、なぜ起こるのか、教科書に書いてあることをみんなで確認しました。

二回目もできて自信もついて、さらに三回目の研修を考えているところです。

 

 

――職員の反応はどうでしたか。

 

妹尾:思いのほかよかったと感じています。もちろんマイナスの意見も聞こえてきますが、「やってくれてよかった。こういう場を今後も設けてほしい」という声の方が多かったと思っています。

 

 

――最後に、求める人材、向いていると思うを教えてください。

 

妹尾:こちらのブログを読んで、「障害特性って何?!もっと知りたい」とか「ああ、本当にそうだよな」などと思った方や、少しでも自閉症支援や重度の知的障害者の支援に興味がある方には、ぜひ一緒に働きましょう!と言いたいですね。実際に深く関わってみてほしいです。

 

それと、今まで話した通り、「友セカンド」は整っていない部分がまだまだあるので、みんなで悩んで試して作っていく感じを楽しめる人材です。

確固たるものができあがっていて、完璧な答えがあり、マニュアル通り遂行すればいいような職場を求めている人には向かないと思います。

建設途中なので当然変更も多いです。変更するのはよりよい方法を求めて模索しているからですが、「また変更するの?先週決めたルールがもう今週変わるなんてやってられない」と思う人は向かないでしょうね。

 

あとは、とりあえずやってみてうまくいかなくても、あまり思い悩まない人がいいかな。

責任感がないとか、不真面目とは違うんですよ。

うまくできなくてどうしよう、自分ダメなやつだと一人で思い悩むよりは、「だれかに手伝ってもらえばできるかな」くらいの気持ちでいられる人の方がいいですね。

 

 

 

 


 

妹尾さん、ありがとうございました。

障害者支援は同じことのくり返しと思っている人、実際にそうなっている施設も多いかもしれませんが、笑プラスは挑戦と成功・失敗のくり返しで日々変化し、職員みんなで作り上げていっていますね。

SHIPでは重度障害者が地域で暮らせる社会を目指して、事業を展開し、一緒に働く仲間を募集中です。

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