TSM(トラウマ・センシティブ・マインドフルネス)の13ヶ月間の学びを振り返る

うだるような暑さが少し落ち着いてきた2023年9月にこのブログを書いています。

昨年の9月からひっそりと受講していた『TSM(トラウマ・センシティブ・マインドフルネス)』

そろそろ13ヶ月間のトレーニングが終了するので、最後にこのブログで振り返りたいと思います。

 

TSM(ティー・エス・エム)を受講した2つの動機

1,講師としてマインドフルネス・プログラムの提供中に、パニック発作を起こした人への適切な対応ができなかった後悔から

2,トラウマに配慮した支援の在り方について、支援者としての姿勢や対応方法を詳しく知りたかったから

 

TSMの13ヶ月のトレーニングは、IMCJ(International Mindfulness Center JAPAN(インターナショナルマインドフルネスセンタージャパン))で受けることができます。

IMCJでは、TSMの他にもMBSR(マインドフルネストレス低減法)MBCT(マインドフルネス認知療法)などのセッションも受けられます。また、将来的にはその講師を目指していくためのトレーニングも受けられる専門性と信頼性の高いセンターです。

興味のある人はIMCJのサイトをチェックしてください。

 

IMCJのサイトには、MBSR創始者「ジョンカバットジン」さんのコメントも掲載されていました。

“And essential ‘upgrade’ for anyone who thinks of her or himself as a mindfulness teacher, or is in training to become one.”

「トラウマ・センシティブ・マインドフルネスについて学ぶことは、自らをマインドフルネスの指導者と考える人、指導者になるためのトレーニングを行っているすべての人に必要不可欠な「アップデート」です。」

Jon Kabat-Zinn, PHD

引用:デイビッド・トレリーブン |トラウマに敏感なマインドフルネスを学ぶ (davidtreleaven.com)

 

ということで、私と同じようなお悩みや動機を抱えている人、瞑想やマインドフルネスを実践している人、その講師として支援を提供している人にはぜひ一度、読んでいただきたいブログです。

 

 

 

マインドフルネスで直面する「メデューサ問題」

さて昨今、世間で注目されている瞑想やマインドフルネスですが、どうやらとても『効果がある』との噂が広がっています。

一方で、瞑想中に過去のトラウマ的な記憶を掘り起こしてしまい、「固まっているだけだった」「孤独で苦しいだけだった」という声もよく聞こえてきます。

 

TSMではそのような現象を『メデューサ問題』と表現していました。

(「メデューサの目を見ると石になってしまう」という神話より)

 

トラウマ体験をした人には共通して『凍りつき』という反応が起こります。

これはある種の身を守るために自律神経系が反射的におこなう生存反応です。

この『凍りつき』の反応が、メデューサの目を見て『石』になってしまう現象と似ているために、『メデューサ問題』と比喩されています。

 

「トラウマ症状に対してマインドフルネスは効果的」というお話は本当にたくさん聞きます。

私が好んで学んできたDBT(弁証法的行動療法)でも中心的なスキルはマインドフルネスでした。

ある書籍では、マインドフルネスによってトラウマで損傷した脳を修復するという見解も示されていました。

 

でも、瞑想中にフラッシュバックが起こると、危険じゃないのに凍りつきの反応が起こって固まってしまいます。

そして過去のトラウマ体験の真っただ中にタイムリープして、そのショックに、ただただ圧倒されてしまいます。

そんな状態でいくらマインドフルネスをしても、その恩恵を受けることはできません。

それどころか、瞑想の時間、ずっ~と辛く、苦しく、深い闇の中、耐え忍ぶことになります。

 

 

瞑想経験のある人には分かると思いますが、瞑想中は呼吸に集中したり、思考の世界に行ってしまったり、そういったことをくり返します。

思考の世界では、過去の記憶を思い出して嬉しくなることもあれば、後悔して辛くなることもあります。また、未来への希望を抱いているときもあれば、不安でたまらなくなるようなことも起こります。

このように、とくに過去の世界へタイムトラベルしていると、トラウマの記憶(メデューサ)を掘り当てやすくなってしまうのです。

 

ですから瞑想やマインドフルネスを提供している人たちは、フラッシュバックや凍りつき反応が起こることを想定しながら、トラウマに配慮したカタチでサービスを提供していかなければならない、ということになります。

私もそうですが多くの人たちが、辛いことや苦しいことと上手く付き合っていくために瞑想やマインドフルネスを実践しています。このような背景を知っておくと、参加者の中にはトラウマを経験している人がたくさんいることが分かってきます。

 

上記のように、トラウマに配慮したカタチで瞑想やマインドフルネスをどのように提供していくかについて、強く訴え、安全に提供できる人材を育てている人が、TSMを開発した『David Treleaven(デイビッド・トレリーブン)』さんです。

ご興味のある人は、ご本人のメッセージを少しご覧いただけたらと思います。(TSMを紹介する2分強の短い動画です)

 

 

書籍も出版されています。

13ヶ月のトレーニングは、費用も 時間も 労力も 家族の理解を得ることも 色々と大変なので、少し気軽に勉強したい方は書籍をベースに学んでみるのも良いかもしれません。

 

 

「耐性の窓」に導くサポートを

『耐性の窓』という言葉を聞いたことがあるでしょうか?

トラウマケアの界隈ではかなり重要なキーワードになっています。

注目のポリヴェーガル理論でもよく耳にする言葉ですよね。

耐性の窓のことを簡単に紹介すると、自分にとって安心感や安全性を感じられるゾーンのことだとイメージしてみてください。

 

 

 

ポリヴェーガル理論のことを少しだけ紹介します。

人(哺乳類)は、自分の身を守るための防衛戦略を、認知レベルというよりも、身体レベルでおこなっていると言われています。

身体レベルとは、自律神経系のレベルでおこなっているということです。

頭で考える前に、主に脳幹を通じた神経系が反射的に反応しているというイメージです。

 

神経系が危険を感知すると、まずはじめに『交感神経系』が活性化して、闘争逃走反応が起こります。

これは過覚醒の状態です。危険から身を守るために、闘うか逃げるかするわけです。

 

でも、闘うことも逃げることもできないとどうなるのか?

今度は命の危険を神経系が感知して、次の生存戦略が発動します。副交感神経系の『背側迷走神経複合体』が活性化して、フリーズやシャットダウンの反応が起こります。

これは低覚醒の状態です。命の危険から身を守るために、凍りついたり、迎合したり、シャットアウトして感覚を麻痺させたり、死んだふりをしたり、ときには別人格が発動することもあります。

 

繰り返しになりますが、自分の対処能力を超えるようなトラウマを体験するということは、闘うことも逃げることもできず、フリーズやシャットダウンが起きて、ただただ圧倒されている状態です。

強いトラウマを体験した人は、その脅威から身を守るために、日常生活を送る上でも常に警戒モードに入ったり、フリーズモードに入ったり、シャットダウンモードに入ったりします。

このように、自律神経系が「警戒モード」や「省エネモード」を自動選択してしまうと、日常生活でも過覚醒でいつもピリピリしていたり、低覚醒でいつもボ―ッとしていることがデフォルトになってしまうのです。

上の図の右側のように、とても狭い「耐性の窓」の中で日常生活をしている状態です。

このような状態がその人の性格だと思われているとしたら悲惨です。性格ではありません。トラウマの症状です。ケアの対象です。

 

一方、危険を感じていない「安心・安全」な場合の神経系はどうなるのか?

この場合は副交感神経系の『腹側迷走神経複合体』が活性化して、人とのつながりを求める社会的な交流反応が起こります。

これが「耐性の窓」の中にいる状態です。

多少のストレスがかかっても、人とのつながりによって回復したり、課題に対応することもできると感じられるゾーンです。

瞑想やマインドフルネスは、この「耐性の窓」の中で実践してこそ、その効果を得ることができるのです。

 

 

 

Being With・Working With(共にある・働きかける)

TSMの講義でもっとも印象に残っていることは、デイビット先生のおっしゃっていた「Being With(共にある)と  Working With(働きかける)の両翼を使って飛びましょう」という言葉です。

思い返すと、上手くいかないときは、いつも目の前の問題に「Working With(働きかける)」ことだけに必死でした。

身体に襲ってくる不快な感覚を一刻も早く取り払うかのように、闇雲に、ガムシャラに、という感じです。

これは、片方の翼だけをバタバタさせている状態です。

これではうまく飛べません・・・・

 

 

そこで「Being With(共にある)」が必要になります。

目の前に問題があっても、身体中が不快な感覚に襲われても、少し間を取って、「自分に今、なにが起こっているのか?」と落ち着いて注意を払ってみることです。

今は改善したりしなくてもOKと自分に許可をして、問題と共存する時間を取ってみるということです。

 

この「Being With(共にある)」のスキルは、まさに瞑想やマインドフルネスの実践を重ねて身に着けていくことになります。

両方の翼を羽ばたかせることができるようになると、風の力もうまく借りながらスムーズに飛べるようになります。

これを日常生活に置き換えてみると、できることとできないことを見極めながら、他人の力も借りながら、落ち着いて問題に取り組めるように、ムリなく課題を進めているような状態です。

 

さて、ここでもう一度、ちゃんと振り返っておきたいことがあります。

「Being With(共にある)」を身に着けるための瞑想やマインドフルネスの実践は『耐性の窓』の中で安全におこなうということです。

安全を感じられないのであれば、今度は安全性に「Working With(働きかける)」必要があります。

 

そうです。安全性に働きかけることが、私たち支援者の役割になります。

少し目を開けて外を眺めるようにガイドしたり、少し身体を動かすよう促して今を感じてみたり、リソースとつながってもらうことで耐性の窓をサポートしたりします。

 

そしてその安全性を内的な安心感として取り入れてもらうためには、安全であるという感覚を神経系に落とし込んでいくサポートが必要になります。

私たち支援者は、このような安全と安心の違いを認識しながら、その両面に「Working With(働きかける)」こと、そして『耐性の窓』の中に導くこと、そのプロセスに寄り添うことが、トラウマに配慮した瞑想やマインドフルネス(TSM)ということになります。

 

瞑想やマインドフルネスに限った話ではありません。普段の支援でも同じようなアプローチが必要です。

耐性の窓の中で課題にチャレンジしてもらうというサポートです。

 



これからの目標

他にもTSMを通じて、学んだこと・気づきを得たことはたくさんあります。

一番大切なことは、この経験をこれからの成長にどう繋げていくかということです。

 

TSMでの学びをブラッシュアップするために、実はこの8月からソマティック・エクスペリエンシングという3年間のトラウマ療法のトレーニングを受けています。

現在47歳なので、50歳のときに本物のトラウマケアの専門家になるつもりで頑張っています。

スーパーサイヤ人にでも進化するくらいの意気込みでチャレンジしています。

 

トラウマは社会問題です。多くの人々の人生を狂わせています。

そして、そのことを自覚している人は少ないです。

そして、このお仕事ではトラウマの影響を受けているであろう人たちとたくさん出会います。

ACE(逆境的小児期体験)、大切な人との離別、貧困、性被害、DV、セクシャルマイノリティ、そして精神疾患の他、様々な障害の発症など、とても大きな出来事の影響を受けている人たちです。

 

大人になった今でも、フラッシュバックの症状に苦しみ、思い出さないように回避したり、ときには自分の感覚を麻痺させたり、いつも危険にビクビクしながら暮らしていたりします。

そんな生活をしていると、自分や世の中を悪い方向にしか考えられなくなりますし、対人関係にも支障を来してしまうことになります。

トラウマは第四の発達障害とも呼ばれており、このような苦しみを抱えておられる人が本当にたくさんいらっしゃいます。

これは社会問題です。解決しなければなりません。

では、この社会問題を解決する方法はあるのか? ということです。

トラウマケアの専門家はどこにいるのでしょうか?

どんな治療法が存在するのでしょうか?

それは病院で受けられるのでしょうか?

お金はどれくらいかかるのでしょうか?

 

福祉の世界だけにいると、情報があまり入って来ません。

だから、

「とにかく気合いで支援するしかない」という発想になってしまいます。

そして案の定、気合だけでは上手くいきません・・・

 

「一生懸命がんばった。もう仕方がない。もうウチでは無理だ。入院してもらうしかない。契約は解除だ・・・」と。

実はすごくせまい世界でしか支援を考えられていない事実を痛感します。

 

福祉サービスの利用者の中には、自分の病気の特徴を知らない、よくなる方法も知らない、教えてくれる支援者と出会えない、治療にかけるお金もない。このような状況に置かれている人がたくさんいらっしゃいます。

私は、この福祉の業界でも、効果の高い良質なサービスをお届けしたいと強く想っています。

 

福祉サービスの担い手としていつも感じていることは、「どんなサービスを提供しても料金は同じ」というジレンマです。

私の目標は、たとえ料金は同じでも『 SHIPの支援の「質」は他と圧倒的に違う』と感じてもらうことです。

このような考えに賛同してもらえる人と一緒に、力を合わせてトラウマケアを推進する活動していきたいと強く思っています。

 

ふぅ、熱く語り過ぎてしまいました

それでは、アディオス・アミーゴ