【重要】安全・安心の本当の大切さ
~アタッチメントやトラウマケアの視点から~

 

福祉の仕事をしていると「安心・安全が大切です!」ってアドバイスされることがよくあります。

うん、たしかに大事だよな、、とは思いつつも、改めて「安心と安全について具体的に教えてください」と言われたらどうでしょう?

言葉に詰まってしまいませんか?

 

ということで、今回は安全と安心の解説と、安全と安心がもたらす効果について解説させていただきます。

 

安全とは?

安全とは、危害や損傷を受ける恐れがない(危険がない)物理的な環境のことを指します。

 

もう少し言うと、ゼロではないけれど「リスクを許容できる状態」は安全な環境ということになります。

 

私たちの福祉の現場でもリスクをゼロにすることは不可能です。

でも例えば、可能な限り段差を減らして転倒リスクを軽減したり、お金や薬の自己管理をサポートして生活の破綻や病気の再発を未然に防いだりします。

 

まとめると、安全は環境によって確保されるものということになりますね。

 

 

安心とは?

安心とは、気にかかることがなく落ち着ついている気持ちの状態のことを指します。

 

もう少し言うと、「心配することのない状態」は安心できる状態ということになります。

 

安全と安心を整理してみると、

支援の仕事では、安心してもらうために安全な環境をつくっているといっても過言ではないことが分かってきます。

 

まとめると、安心は気持ちによって確保されるものということになりますね。

 

 

安全で安心になるとチャレンジがはじまる

最近、愛着障害という言葉をよく耳にするようになりました。

子どもの頃の育ちの問題が、大人になっても影響していそうな人に、「あの人には愛着の問題がありそう」と指摘するような場面です。

ここでまた、「『愛着』という言葉について具体的に教えてください」と質問されたらどうでしょう?

 

 

愛着は『アタッチメント』という言葉で表現されることもあります。

アタッチメントの行動とは、赤ちゃんがお母さん(養育者)に助けを求めて近づき、安全と安心を求める行動のことを指します。

 

危険を感じたら母親のもとに逃げ込みます。そして抱っこしてもらうと「お母さんは安全な避難場所」という認識になります。

「この人といると安心できる」という認識に変化して気持ちが落ち着きます。

まさに、安全と安心が充足している状態です。

 

お母さんという安全な避難場所が担保されると、そこから離れてみる探索行動がはじまります。

探索行動とは、お母さん以外の人や環境にも近づいていくようなチャレンジ行動のことです。

何かあってもその『安全基地』にもどれば大丈夫なわけですから、主体的な行動が増えてくるわけです。

まさに、自立への始まりだと思います。

 

 

対人関係を広めていくような支援は、このような安全と安心のメカニズムを理解しながら進めていくことが大切です。

誰かが物理的に安全な環境を提供して、誰かが母親のように安心な気持ちで迎え入れなければ、いくら「社会に参加しましょう」「他人と交流しましょう」といっても上手くいきません。

 

あと一つ、注意をしておいた方がいいことですが、アタッチメント行動とは「赤ちゃんの都合」で助けを求めに来たときに母親が「安全基地」として機能することでしたよね。

赤ちゃんが求めていないのに母親が一方的に心配して介入しているような状況は、愛着(アタッチメント)の大きな誤解ポイントになります。

いわゆる毒親とは、このようなケースを指すのだと思います。

 

これは支援者にもよく起こることです。

いわゆる過干渉のような支援の強い関わり方は、利用者さまの自立のためではなく、自分の心配を取り除くためにしているということになります。

 

自立の前の「自律」の支援で重要なことは、『自分で選んで、自分で決めて、自分で責任を持つ』の経験を育むことです。

そのためにも、安全な環境の提供安心の気持ちの充足が重要いうことがお分かりいただけたのではないでしょうか。

 

 

 

安全と安心、どちらかだけだとチャレンジできない・・・

でも、現場で支援をしていると、安全な環境を提供しても安心を感じてもらえないような場面に遭遇します。

 

たとえば、

・病院の中は安全だけど、ドクターの態度は信用できない

・施設の中は安全なんだろうけど、スタッフの優しさが逆に怖い

・支援者は安全といわれるけど、また裏切られるのは不安

・〇〇さんは安全だと分かったけど、〇〇さんにそれは感じられない

 

 

このような現象はとてもよく起こります。

なぜなら愛着(アタッチメント)の形成が必要だったその頃に虐待などの『トラウマ体験』のある人は、自分の意志とは無関係に『危険な環境』に閉じ込められ続けた過去があるからです。

 

たとえば、お母さんのもとへ、愛着(アタッチメント)行動で助けを求めに行ったのに、逆に危害を加えられたとしたらどうでしょうか。

無力で無防備な小さな子どもが、自分で自分をどのように守っていけばよかったのでしょうか。

 

闘うことも逃げることも許されないような状況下にずっ~と置かれつづけた場合、生物学的には神経系が自動的に反応して、生き残るための省エネモードに入ります。

擬死のように、自分と自分の感覚とを切り離すように、痛みや感情を感じさせなくするように、離人や解離のモードに入るのです。

私たちが支援する人たちの中には、このようなサバイバルな状況を何とか生き残ってきた人たちがいらっしゃることを考慮して関わっていかなければなりません。

 

現在、『トラウマ・インフォームド・ケア』の考え方がとても注目されています。

誰もがトラウマによる苦しみを抱えている可能性があることを想定しながら、トラウマへの理解と生活への影響について知識をもって関わっていくケアのことです。

 

 

例えば、いくら安全を確保しても安心できないとは、

・危害を受ける環境の方がが馴染みがあって安心できる。でもそれは、被害に遭う率の高い危険な行為

・性的な行為は人肌に触れられるから安心できる。でもそれは、知らない人との交わりは危険な行為

・悪い仲間は気持ちを分かってくれるから安心できる。でも、そこでしている暴走行為や逸脱行為は危険な行為

・お酒やドラッグは苦しい気持ちを確実に和らげてくれるから安心。でも、長期的には命を奪っていく危険な行為

 

私たちは、

安全だけど安心できないような人たちへ、

安心を求めて安全でない環境や行為へと引きずられる人たちへ、

トラウマ・インフォームド・ケアを提供していかなければなりません。

 

 

今回は、トラウマ・インフォームド・ケアに必要な『4つのR』を紹介してこのブログの締めにしたいと思います。

 

Realize『理解する』:トラウマによる心と身体への影響への理解を深めること

Recognize『気づく』:トラウマの兆候や症状が出ている可能性にいち早く気づくこと

Respond『対応する』:トラウマの知識を支援の方針・手続き・実践の計画に組み込んで対応すること

Re-traumatization『再トラウマ化を防ぐ』:トラウマによる生き残り反応を見える化して尊重して再トラウマ化を防ぐこと

 

発達障害への理解が浸透してきたように、今度はトラウマ症状への理解を深め広げていくことで、支援対象者の方々への再トラウマ化を防ぐことが福祉業界に課せられた解決すべき社会問題だと捉えています。

そのため、2023年度はトラウマケアに関する内部研修のコマを増やしまくっています。

SHIPの職員の皆さんと一緒にこのテーマを真剣に考え、この社会問題を一緒に解決していってもらいたいと強く願っております。

 

それでは、今回はここまで。

アディオス・アミーゴ